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四番裁判員の質問

作者: 頭山怛朗

「事件のあった日は酷い暑さでした。最高気温は三十五℃を越え、夜になっても少しも涼しくならなかった」と、四番栽培員が証人席の女に言った。女は超美人だったが何処か影があった。「それで、証人は当日お風呂に入りましたか?」

「シャワーを浴びました」と証人席の女。

「何時ごろ?」

「九時頃だったと思います」

「ところで、事件があったのは十一時半ごろ。証人は、若い女性がそんな遅い時間、どうして現場を通りかかったのですか?」

「さ、散歩です」女に動揺が走った。

「私は肥満解消目的で、時々、ダイエットのために散歩をします。でも、シャワーは散歩の後にする。特に事件のあったあんな暑い夜はなおさらです。シャワーの後に散歩や運動するなんてことはしない。シャワーが無意味なになる」

「そ、そ、そんなこと私の勝手でしょ!」証人が声を荒らげた。明らかに動揺していた。「思い立ったのよ」

「そう勝手ですね」四番裁判員が続けた。「被告は事件のあった夜、残業で遅くなって十一時過ぎの最終電車をT駅で降り、証人の家の前を通って自宅に向かって歩いた。あなたのアパートの前を被告は邪まな意図、レイプするつもりで被告をつけていた。街灯もあり、あなたのアパートから道がよく見える。証人はそれを見て二人をつけたのではないですか? 何かが起きるのを直感した。そう考えればあなたみたいな若い女性が夜遅く、あの暑い夜、シャワーを浴びた後に出かけた。

「勝手な想像はしないで」女は、一転、妙に冷静に言った。

「あなたが被告が被害者をなぐり殺したのを見たのは偶然だと……」

「そうよ」

「被告は被害者に馬乗りにされ、身を守るため手じかにあった石で一度殴ったと証言しました。それで被害者が自分の体から降りたので石をそこに放り出して逃げたと言いました。でも、被害者は頭を何度も、何度も殴られています。正当防衛の限度を超えた回数……。だから被告はここにいる」

「あの女は、検事さんの質問に“興奮していたから何度殴ったのか分からない”と言い換えたわ」

「それこそ、あの時のことを思い出した興奮した状況でね。そこで、裁判官、一つお願いがるのですが?凶器となった石の指紋を鑑識した“鑑識さん”に質問したいのですが?」


「それでは凶器となった石には被告以外の指紋はなかったけれど、擦れた跡があった。と、言うことですね?」

と四番裁判員。

「そ、そうです。僅かですが……」とK署の鑑識職員。

「擦れがあった。と、いうことはどういうことが考えられますか?誰か、被告以外の第三者が手袋かハンカチで自分の指紋が付かないように凶器の石を持った可能性があると言うことではありませんか?」

「か、可能性だけならあります。そのことは……」何か言いかけたが鑑識職員は口を閉ざした。


「被害者は何度も、何度も頭の左側を殴られています。つまり殺人者は右利きということになります。被告は右利き」と四番裁判員。

「あの女が殺人者ということよ。私は左利き、お生憎さま。裁判員さんの杉下右京きどりはここまでよ!」と証人。折角の美人が疲れ切っていた。

「“相棒”の杉下右京と一緒にしてくれるとは光栄です。でも、私は単に疑問があっただけです……。あなたは事件があった夜、被害者が被告をつけているのを見てあなたは二人をつけた。想像した通り被害者は被告をレイプしようとして被告に石で殴られた。一度、たった一度。被告は怖くなって石を放り出し現場を逃げ去った。それを見ていたあなたは冷静に利き手ではない右手で被害者を何度も、何度も殴った。勿論、ハンカチか何で自分の指紋が付かない注意した。で、凶器の石の被告の指紋に擦れた跡が付いた」

「ど、どうして、私があの男を殺さなければならないのよ?」

「ミステリードラマでよく『殺されて当然の人間などいない』と刑事がいいます。でも、私はどうかなと思います。たとえば被害者。レイプ、レイプ未遂、恐喝。その他あらゆる犯罪を繰り返したいます。『“殺されて当然”でなくても“死んで当然”』だと私は思います。恐らくあなたも、被害者に……」

「それから先は言わないで!お願い、言わないで!」 証人席の女が泣き崩れた。




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