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絶望ってこんな味




千明は目の前の光景をただ呆然と見つめていた。


声が出る限り叫んだと同時、握りつぶしていたカードから目を焼くような光が溢れ出してきたのだ。

それは眼のないミミズさえ圧倒するような光源となって、千明は眼を開けていられなくなった。瞼を閉じても光が溢れているのがわかるほどだ。

やがてそれが収まってくると、千明の首筋がぴりぴりと震えた。



「……砂漠ワームか」


低く囁くような声だった。

あるはずのない気配と声に驚愕して、千明は勢いよく瞼を開ける。

果たしてそこには、太陽に照らされた光の塊が立っていた。

その光の塊の向こうに、例の巨大ミミズが頭を擡げている。

眼が慣れてくると、それが銀の鎧を着た人間らしきものだとわかった。

手には鞘から引き抜かれた大降りの剣が握られ、ミミズはそれを警戒してか、じりじりと後ずさっている。


「サトリ砂漠……?よりによって相性の悪い場所に出たな」


兜を被った顔がのんきに辺りを見渡す。

相性が悪いとは、その金属製の甲冑と太陽のことを言っているのだろうか。確かに、そんな姿でこの陰から出て直射日光を受けたら、鉄板で焼かれているも同然だろう。


「まあいい。とりあえず、お前をどうにかせねばな」


しかしそれは些末なことだといわんばかりに無造作な仕草で、鎧男は腕を振り上げた。

左手で握られていたやたらと頑丈そうな剣が、一閃する。


――一瞬だった。


呆然とする千明の前で、チンアナゴ……もとい醜悪な巨大ミミズは、まっぷたつになって死んだ。

どう考えても振り上げた剣身はミミズの巨体に届いたようには見えなかったが、まるで目に見えない鎌鼬でも放たれたように、ミミズの肉は美しく分割されたのだ。

その際に飛び散った体液という体液を浴びそうになるが、鎧は何故か一歩も動くことなく、体液を浴びることはなかった。何故か背後で守られていたはずの千明の頭に体液がべちゃりと飛んできたが、そんなこといまやどうだっていい。



(……出た)


千明は大きく見開いた眼で、目の前の鎧に覆われた背中を見る。

(ほんとに、出た)

なにをどう考えても、この突如として現れた鎧男は、あの少年がくれたレア中のレアだというカードから召喚されてきたとしか思えない。


少年は言った。

このカードは、〝誰か〟が助けてくれる最強アイテムだと。


(助かった……)


安堵に泣きそうになるのを堪える。

見知らぬ土地で、見たこともない巨大な化け物を前にして、今まさに喰われる直前で、千明は救われたのだ。

しかし、堪えても零れ落ちそうな涙を湛えた千明だったが、鎧男の次の一言で希望は砕け散った。


「チッ、めんどくせぇな。この俺をこんな辺鄙な砂漠に呼び出すたぁどこのどいつだ。見つけたら牢屋にぶっこんで処刑してやる」


最強アイテムから召喚された千明を助けてくれる筈の〝誰か〟は、性格までは考慮されなかったらしい。

不吉な言葉を耳にした千明は、安堵の涙も引っ込んだ。

一番はじめに聞いた落ち着いた声の持ち主は、一体どこへいったのか。


(舌打ちしやがった)


どう考えても、性格が違うような気がする。


(なんにせよ、まずい)


そろそろと音を立てないように後ずさり、崩れた岩陰に逃げ込もうと千明は考える。

この鎧男が有限実行の人間ならば、千明は間違いなく、牢屋にぶっこまれて処刑されてしまう運命を辿る。

いまやまっぷたつにされて異臭を放つミミズの存在など忘れ、目の前の鎧男から逃げることばかり考えていた。

先ほどまであれほど恐ろしかった巨大ミミズが、何故か鎧男が現れてから存在感が感じられない。絶命したからとも言えるが、それは内包する魔力の差が原因だとは、このときの千明が知るよしもない。


ざり、とスニーカーの裏が砂を滑る。

やばい、と思ったときには、眩すぎる兜がこちらを向いていた。


「それで、お前はこの俺にどんな報酬をくれるわけ?」


瞳の部分だけ開けられた兜からは、相手の表情は窺えない。それでもその眼が、愉しげに歪んだのを千明は見逃さなかった。


(……終わった)


一対の性悪そうな瞳に見下され、本日二度目の絶望が、千明を襲った。





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