不可思議生物 ameーba
厩舎に入ると整然と並んだ樽に分裂したばかりのアメーバ達をそれぞれしまう。
「この樽がこの子達の家になるの。 で、こっちの発酵させた牧草を与えると牛に進化してくれる訳ね」
「もう1匹にはあげないのか?」
「そっちは大きくなったらまた殖やす予定だから雑草で育てる事になるわね。ちなみに、雑草を与えて進化するとヤギや他の草食動物。発酵させない牧草だと羊に成長。こうやって限定させて進化したのが動物でおまんまを頂戴しているのが育成屋のお仕事です」
笑顔で先に進むティティに付いて隣接した家屋に入る。
「さて、進化の話は長くなるからお昼でも食べながら話ししましょ。旦那は組合があるから付き合って頂戴」
育成屋の主人であるアランは、昭人がこの街に来て初めての友人だ。その数は現在でも対して増えてはいないのだが。
「さっきも話に出たけど、牧場で雑食に育てちゃうと草食動物には絶対進化はしないの。雑食で進化する先は、完全に運任せね。極稀にだけど犬や猫に進化してくれれば、王族や貴族に買い取ってもらえるから挑戦する育成屋がいるけど、大抵は大損するわ」
「雑食なら他にも毛皮みたいな需要は・・・。 あぁそうか」
「そう。毛皮が欲しければ魔獣を狩る事になるわ。そっちの方が品質も高いし、牙や骨も武器として商品価値が出るほど堅い」
魚介の香るスープとパンを山盛りこれでもかという量、テーブルに置くとさらに続ける。
「そしてアキ君の本命、砂獣の進化は雑食と同じで運任せね。ただ違うのはどんな進化をしても、砂獣は砂海を渡る力に長けているし、船を曳けない種類になったって話は聞かないからそこは安心していいと思う」
「船着き場でもまったく同じ品種は見たことないもんな」
「砂獣は品種で分けるよりもタイプ別にする方が一般的よ。大ざっぱにだと」
積載量が大きい貨物船タイプ
速度が出せる快速船タイプ
航海中に食料が少なくて済む遠洋タイプ
探索能力に長けるタイプ
「他にもあるし、複数のタイプを兼ね備えている個体もいるから、だいたいは進化に合わせて人の方が仕事を選ぶ事になるわね。で最後のがアキが好きなクエストの元」
クエストが堅実な仕事ではない事は気付いていたが、すっかりバレているようだ。
「探索能力に長けていても積載量に不安があったり、操縦者が腕に覚えが無い。そもそもが高価なアンカーを積んでいない。こういう船がクエスト屋に情報を売るの。まぁ反応があっても確定ではないから堅実な人とも言えるわね。
どうやら進化によって、古代の生物に近づく。とか言う学者さんもいるけど、古代の牛はまだらな水玉模様だったみたいだし、はっきりした事はわかってないわ」
食事を終え、現状必要そうな情報を教えて貰ったお礼を約束し、牧場を後にした。
街に辿り着いてから大分時間はかかってしまったが、これから先がようやく形になってきた気がする。
釣りで生計を立てながら、進化を待つ。その結果次第で運送なり遠洋漁業なりに転職し借金を返済。努力さえすれば一番安全で将来嫁さん貰って幸せな~とかなるんだろうが、2つ問題がある。
1つは陸地のほとんどが魔獣に支配されている事。どんなに安全を求めても、支配者に攻め込まれたらそれだけで人生が詰んでしまう。自分を守れる力を持たない事には安心は出来ない。
もう1つはもっと簡単な事。俺がそれを選ぶ気がないから。自分で言ってても甘っちょろくて失笑物だが事実だからしょうがない。
日本に住んでいた時には金銭の掛かったギャンブルなどは興味がなかった。だが、小学生の時に家出をして迷子になった時には恐怖や、見知らぬ景色への高揚感ではなく、自分の意志で選択をした事に対して生まれて初めて下半身に血が集まったのを感じた。それ以来どんなささいな事でも自分の選択肢を奪われる事に我慢が出来なくなってしまった。
良きパパには成れそうもない。
なんの因果かたった1人異世界にたどり着き、生き抜くチャンスを与えられた。である以上目指すは1つ。
ご大層に異世界での生活を《与えてくださった》神様だかなんだかを探しだし、ぶん殴って自分の意志でどう生きていくのかのチップを賭け直す。