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砂海航路  作者: 蚊々
商会(パーティ)立ち上げ
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商業ギルド加入

 


 遺跡クエストを成功させ、今後の方針を決めた二人と一匹。いや二匹は日の出と共に出港していた。

「しかしこれは舟と言っていいのかな?」

「後ろだと尾がじゃまだし、上だと器材が必要だからね〜」

 20mを越える空色の光沢を持つ大蛇へと進化したライマールに一人乗りの小船を曳かせるには左右に揺れ動く尾が邪魔だった。その妥協案として選ばれたのが前方。鎌首を上げたライマールが舟を押す事で砂海を進んでいた。

「前が開けているのは爽快感あるな。周りから見たら相当格好悪いんだろうけども」

「ライちゃんは蛇型だから遠洋・探索が得意なタイプ。積載量の問題もあるけど能力を活かすならやっぱり大型船だからそれも考えて曳かせ方を決めないとね」


 さまざまな形を取る砂獣であるが、蛇型の代表的な特徴としては、一度に大量の食事が要るものの航海中に食事を取る必要が無い事と、砂中に有るものを発見しやすいのが挙げられるだろう。更にライマールは初動速度・旋回性能には難が有るが、二十日間は食事を必要としない航海日数とその巨体に違わぬ牽引能力を持っていた。


「ん〜新造はお金掛かりすぎるしそっちはサン・トメ着いて現物次第か。 今解決しない問題よりも、昨日言ってた魔法教えてくれよ」

 どの魔法をを学びたいか聞かれるが、魔法を使った事の無い昭人にはとうぜん答られるはずもない。その表情から何かを察したのかソフィアが懐から一枚の紙を取り出す。


「得意属性も知らないなんて、どんな田舎で育ったのよ。その蓄魔紙に魔力……気合い・気持ちそんな感じのを込めればわかるわ」

「これって魔法使う時に取り出してた紙だよな。 これでいいのか?」

「成功すれば紙が変化するからまだまだ……って注入されてる? なんで変化してないのよ」

 あわてた様子で昭人から紙を奪い取って魔力を注ぎ込むが、変化は起きない。

 懐から更に一枚の紙を取り出すと、彼女の手に収まった紙はすぐに重力に逆らいピンっと伸び、音も無く切り裂かれていく。





 ソフィアが確認した範囲では昭人は魔力を持ってはいる物の、具現化させるに足る属性を持ち合わせていないらしい。


「まったく。属性が無い人なんて聞いた事無いわよ」

「強調するなよ凹むだろ。俺だって魔法使ってみたかったさ」

「まぁまぁお二人共ここは落ち着いて、深海シリーズ第二段『謎の海底サメ王国』はいかがでしょうか?

 一億年前から姿を留めている古代サメなども映像に納めた大好評シリーズの続編でして満足度第一位」

「昨日見せて貰った大王イカは大迫力だったわ。あの続編があるなんて私を寝かせない気ね」

 結局昨夜、ソフィアが泊まる宿に潜り込んだザリガニは無事『N○Kスペシャル番組』の布教に成功したようだ。


 ちなみに異世界ソーラー稼動自律AI搭載お掃除ロボットが、何故N○Kを保存しているかは、今後語られる事はないでしょう。


「魔法のある世界に来たってのに適正無しって笑うに笑えないなぁ。これからも頼りはお前だけだぞ」

 会話からはじき飛ばされてしまった昭人が船尾から伸びる蛇腹を軽く叩くと、頭上から嬉しそうな声が聞こえる。


 シャーシャー

「よしよし。もう陸地の物食べていいらしいから、街着いたらお土産期待してろな」

 シャーシャー

「こら、わかってるって」


 ……その声に感情を読み取れるのは昭人だけだが。




「あっと上演直後に大変申し上げにくいのですが、街が近付いて来たようです」

「あれが首都かぁ」


 首都サン・トメ。より宗主国の影響を強く受け、一行は無数に架けられた桟橋から大型船が集まる区域に舟を泊めて街に入ると違いがよく見て取れる。家の壁一つとっても直角に整えられた石が正確に詰まれ、石畳も滑らかで凹凸が少ない。

 グレイティアの喧騒とは違い、落ち着いた活気と言うべきかそんな空気が街に満ちている。


 港から続く太い一本道には平屋がほとんど無く、独立した店々が軒を連ねていた。その道はなだらかな丘を上りきったその先に終点を迎え、石造りの無骨な城が聳える。


「お上りさんだと思われるからキョロキョロしないの」

「三階建て以上の建物なんか久しぶり見たからついな」

「こちらの荷物はどちらに運びましょうか?」

 薄くデザインの高い服を着た商人も、麻に似た簡素な服を着た奴隷達も皆金属光沢を持つ不思議な生き物に注目するが、港で借りた積み荷満載の大八車を平然と曳いているザリガニには気にした素振りを見せない。


「売るのは商業ギルドに入会してからね。バックがあるかどうかで信頼感段違いだわ」

「流石ソフィアお嬢様。それでしたら昭人様の御召し物を買い揃えてからの方がよろしいかも知れません」

「どういう意味だよ」

 昭人が持っている服は全てグレイティアで買い揃えた一般的な市民が着る服のみ。総額数百万にもなる商売をするには些か役不足と判断されたのであろう。

「……確かにその服で古代遺跡から発見された商品ですって売り込んでも舐められるのがオチね。虚仮威しじゃ意味はないから、せっかく買うなら冒険者だってわかる実用的な装備買っちゃいましょうか」


 そうしてそぞろ歩きながら着いたのが港に程近く。はち切れそうな袋に山と積まれた貨幣が描かれた看板が下がった五階建ての建物。わかりやすい商業ギルドだ。

 一階部分は壁の一面が解放されていて柱が太く、間隔が狭い事を除けば現代のビルそのものだった。中ではさまざまな馬車が規則正しく並び、その前で馬車の持ち主であろう人間が熱い値段交渉を繰り広げている。


 昭人がギルド職員らしき制服を着た男性に近寄り質問をすると、予想通り会員以外には駐車が許されていなかったが、帰りにギルドカードを提示出来れば構わないらしい。

 大八車を置かせてもらい、何気に着いてくるザリガニと中央の階段を上がっていく。


「すいません〜 ギルト入会と、商会(パーティ)立ち上げしたいんですけど」

「はいはいこちらのカウンターで受け付けますよ。

 で、ギルト入会との事でしたが詳しい規定はこちらの冊子を購入して頂ければ載ってますので」

「買わないって選択肢はありか?」

「……有りですが、オススメ出来ませんね。


 ――運転免許更新の時に付いてくる要らない免許入れと同じシステムだ――


 購入ありがとうございます。まずは必要情報の記入と、ギルドカードを作ってそちらに金貨1枚(100万円相当)を預金して頂きます。引き落としは自由ですが、商売をする時の取引手数料や税金はこの預金から引き落とす形となりますので残高には気をつけて下さい」


 ここで初めて申請を記入するのが自分だと気づいた昭人は、ソフィアに愚痴を言いつつも職員に手伝って貰いながら必要事項に記入をしていく。

「ここに代表者名で、商会名って適当に書いておばいいのか?」

「え? どうしよう、そういえば考えてなかった」

「ん……『砂海航路』でどうだ。全人未踏の砂海を冒険し、新しい航路を見つけだす商会」

「会社っぽくはないけど……いいかも。バーンっとデッカく書いちゃって」

「その勢いでわたくしの改名の方もバーンと是非」






「では審査の間にランクの説明を致します。G〜A、Sとランク別になっていまして、Gは実質上の仮加入です。犯罪歴が無く、金貨一枚あれば誰でも成れてしまうので、現金現物での取引以外は出来ない物と覚えておいて貰えばいいでしょう。

 後ろのボードにも張り出されていますが、依頼を一定数こなしギルドカード内の残高が必要金額を越えていればランクが上がります。資金が有り、真っ当な仕事を繰り返してきたと、信用度が上がる訳ですな。

 D〜A、Sは少し特殊でして、取引を繰り返し更に同業種でかつ同ランク以上の企業からの推薦状が必要となります」

「同じ商品を売るいわばライバルでしょ?推薦状なんて出してくれないんじゃないの?」

「これらのランクに上がるのは実質店舗のみですから。推薦状を出させる程の信頼を築くのは確かに難しいですが、別にライバルとは限りませんよ」

 祖父からの勲等の中には無い考え方だったのか、ソフィアにとっては首を傾げる話だった。


「『店舗』じゃなければ、そうとも限らない。って言っている様に受け取れるが?」

「……さぁどうでしょう。さて、次は説明と言うよりもアドバイスになります。商人同士での交渉をなさるのは自由ですが、そういったツテが少なく信用も築けていないGランクの方は商業ギルドとの売買をオススメしています」

「それはどういう事でしょう? わたくし、依頼を出した商店と取引をしないとランクが上がらないと先ほどおっしゃっられたと記憶してますが?」

「喋るエビとは珍しい生き物ですね? 失礼。プライベートには触れないのが商人の礼儀。

 依頼に出されている品物は需要が有ると分かっている商品ですが、必ずしも依頼の品だけで船が埋まるとは限りませんでしょう? 余ったスペースに積み込んだ物、依頼には現在出ていないけども価値がある物をギルドで買い取らせて頂いているのですよ。

 さぁお待たせしました。書類にも不備はございませんでしたし、これであなた方も商業ギルドの一員です」


 ギルドカードと同時に、商会用のキャッシュカードになっているので当然昭人の手からは奪われる。


「じゃぁ早速依頼探して、手持ちで完了出来るのを受けちゃいましょうか」

「ライマールの食費考えると時間を無駄には出来そうにないし、そっちの方が良さそうだな。食器、日用雑貨辺りで何か出ていればいいけど?」

「ん~日用雑貨なんだけど……高級日用雑貨ってどんな店が取り扱ってるのか想像出来ないわね」


 二人が長時間、依頼書とウンウン唸りながらにらめっこを続けていると、先ほどギルド申請を担当した職員が近づいて声を掛ける。


「そういう時の為のギルド買い取りですよ」



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