他の方の迷惑になるので、ちょっと裏いきましょうか。
二人はグレイティアに戻ると、既に夕日が沈む頃合い。繁華街沿いに店を構える、程々に良い値段を取る料理屋に来ていた。
「オーナー私、船長あなた、コアの損失分の借金返す、わかったわね」
「わかったから何度も繰り返すなって」
二人で分けるはずだったコアを紛失した責任の追求を延々と聞かされた昭人は、今後の働きで返す事になってしまった。
「ったく。正直あますぎるぐらいなんだから感謝しなさいよね。このムースお代わり下さい~」
体毎後ろを振り向きウェイターに追加注文をするソフィア。彼女にとって今回の出来事は損失でもあったが、同時に渡りに船でもあった。未成年の女性一人では今後の冒険に煩わしい出来事が増えるのは確実で、初対面とは言え信用が出来そうな成人男性が旅に加わるのはそれだけで彼女にとって大きな利点でもあった。素直に言うつもりは無いようだが。
「人の奢りだと思って食いすぎだぞ。 で、さっき言ってた商会立ち上げて、一緒に金儲けしようって話だが」
「お金儲けなんて夢の無い事言わないでよ。冒険をする為に、ちょっとお金を稼ぐのよ」
「それは本棚やシャンデリアを持ち出そうとした奴の言う台詞じゃないな」
「うっでもでも、今回のクエストでも大型船と曳航用アンカーを用意出来ていれば遺跡丸ごと手に入ってたんだから、設備投資の為にもやっぱりお金は大切よ」
「確かに……今の舟は、ライマールの身長だと7隻は入る小舟だもんな」
「砂獣と同程度の船が航海の基本だって言うから、船は最優先で買い替えないと。それに今のままだとライちゃんの停泊代と食費だけで破産しちゃうわ」
「何があるかわからないから装備の方も頼む」
今回の失態で財布ごと完璧に握られてしまった昭人は、当分世知辛い生活が続く事であろう。
「その為にも、サン・トメに行こうと思うの」
遥か東にあるユリシア大陸スペウトを宗主国とし、ここグレイティアの町を含めた周辺島群をプルコ大陸を纏めるのが首都のサン・トメ。外洋交易の玄関地であり、プルコ大陸屈指の都会である。
「サン・トメの商業ギルドで商会設立の申請をすれば、今後の商売がしやすくなるから。その足で積み荷を裁いて船を手に入れる。積載量が増えれば商売として安定するはずだからそれで行こうと思っているわ」
「流れはわかったけど、設立の申請って難しい事あるのか?」
「いいえ、書類申請と補償金があればギルド加入自体はすぐに入れるって」
異世界に飛ばされて早半年。昭人は日常会話には困らない程度には上達した物の、読み書きにはまだまだ不安が残るので書類と名の付く物はすべてソフィアに丸投げする事を早々に決める。――未成年のソフィアでは申請が通らないので、望みが叶う事はないのだが――
「商会設立か、自由気ままがモットーなんだがな。すいません~テキーラとライムおかわりで」
「ところで昭人はしたい事はないの?」
(地球に戻りたいとか言ったらどんな顔するかね? ……やめておくか)
「ある事にはあるんだが、まずは情報集めからかな」
「情報ってざっくりし過ぎよ。どんな?」
「そんな食いつくような話じゃないぞ。 ……歴史・伝承・あぁ魔法も調べないとか」
昭人がソフィアに異世界転移の事を話さなかったのは出会って僅か1日だった事と、手助けを求めるにせよ自分に起きた事を説明出来るだけの情報が無かっただけだ。明らかに年下ではあったがこちらの世界に詳しく、不用意に踏み込んで来ない姿勢には好感を持てていた。
「魔法の使い方ぐらいなら私でもイケるけど、歴史を本格的に調べたいならユリシア大陸まで行かないと駄目ね。あちらまでいけば、図書館に大抵の事は残っているはずよ」
「図書館か。結局読み書き出来るようにしないといけなんだな」
「何を調べたいのか知らないけど、手伝いぐらいならしてあげるわよ。それに、生物学を研究している人もユリシア大陸にいる事だしついでに、ね」
大陸間移動が『ついで』で済ませれるはずも無いのだが、調べ物の詳しい内容にまで突っ込んで来ないソフィアの気遣いに心の中で感謝し、お互いその日は別れた。
「わたくしはこのマリネが……あれ? マスター達どこ行っちゃったんでしょうか?」
「お客さん。御会計はこちらになります」
「お金はマスターが……「他の方の迷惑になりますので、裏の方に行きましょうか」いやいやいや、助けて~~」