クエスト成功……?
「ぺっぺっ口ん中砂だらけだ」
後方では砂埃を上げ、沈没船が再び沈んでいく。実際後少し脱出が遅ければ、アンカーを外すのが遅れていたら彼らも同じ結末を辿る事になっていただろう。
「口どころか全身砂まみれじゃない」
体を叩き、砂を落とすソフィアと眼を合わせる昭人。二人の表情に、堪えきれない表情を浮かぶ。
「「ふふっくはっはっはっ」」
「借金返済だ〜」
「遺跡クエスト成功!大金持ちよ」
「売って換金しないといけないが、今日は前祝いだ。ソフィアも来るだろ?」
「あら呼ばない気だったの?良い店じゃなきゃ認めないわよ」
暗く狭い場所から解放された事と、莫大な報酬。雲一つ無い青空の下、二人のテンションは当分下がりそうにない。
「これわかる?」
「コアだろ?宝石みたいで綺麗だよな」
「やっぱりわかってなかったのね。みたいじゃ無くて、宝石に力が宿った物がコアなのよ。そして宝石名『ライマール』よ」
「おぉこれがそうなんだ!どこかで聞いた事ある名前だと思ったら宝石の名前だったんだな」
「うん。綺麗な空色だし、あなたのアメーバそっくりね」
「ほらライマール。これがお前の名前の由来だぞ」
宝石を掲げ、太陽にかざして反射を楽しむ昭人。名前を呼ば、嬉しそうに震えるライマール。
「ただ、それだけ大振りなコアだと売り方がね」
「高すぎて買い取ってくれる店が無いとかか?」
「世界で唯一とかじゃないから、それは流石にないけど。けどそれだけ上質だと、個人に直接売り込めればより売値に期待できるのよね」
「あぁ買い手が宝石商にオリジナルで土台の装飾を造らせるとかか? ツテもないし、あまり欲張りすぎないでもいいだろ」
昭人の脳裏には、全ての指に大粒の指輪をはめる奴隷商兼金貸しの顔が浮かぶが、すぐさま消去する。関わらないで済むのなら、それに越した事は無いと。
「いいツテが見つかるかもしれないし、それは後で考えましょうか。じゃ積み荷と一緒にはして傷ついたら大変だから、私が持っておくわね」
「ん? 今取っていったじゃないか」
「何ふざけてるのよ。私そんな事してないわよ?」
「イヤイヤイヤ。俺の手から……」
それに罪は無いであろう。名前を呼ばれ、上げられた右手から受け取り、消化していく。唯一普段と違ったのは、その物が高額だっただけ。
ライマールには何度も繰り返されたように「「あ゛ぁ゛〜〜」」昭人から餌を手渡しされただけ。
「ぺっしろ! ぺ!」
「えっ? なっ?! コアを食べさせるなんて何考えてるのよ!!」
「俺だって知らね〜よ! なんか宝石が小さくなってる気が……」
気の性であるはずもなく、ライマールに消化されたコアはあっと言う間に熔け、最後には識別出来ない程小さく砕けちる、宝石(大金)。
「ぁぅぁぅぁぁ……船の購入資金が溶けちゃっ……た」
「ハーレム……」
時価数千万の宝石を、自らの不注意で食べただけでは話は終わらない。腰が抜け座り込む二人を後目に、ライマールの体は空を圧縮して創られた太陽の様に光輝きだした。そしてその身は胎動し、一つの形を象る。
光が徐々に収まると、二人の視界に入るのは一見今までと変わりない空色の澄んだ……鱗。
二人がギギギギっと顔ごと視線を横にずらし、鱗の固まりを辿って20メートルも行くと終点にはつぶらな(相当に巨大ではあるが)瞳。大きく引き裂かれた口先からは、先の分かれた舌がチロチロと動いている。
多大な犠牲(主に金銭的な)を支払い、ライマール(アメーバ)は大蛇(砂獣)に進化を果たした。
借金返済額まで事実上の到達!
新たな負債数千万?