ラストチャンス
「おはようさん。ギプスとれたのか」
この世界に飛ばされて以降、世間話出来る程度には仲良くなった船着き場の管理人との挨拶も程々に昭人は舟を出航させる。アンカーにいつもより念入りに油を差し、ライマールに声をかけた。
「今日はいつもの釣り場じゃなくて島の裏に行くぞ。危険な砂流が近いポイントだから気をつけて行こうな」
昭人がライマールと名前を呼ぶとそれは触手を伸ばし、そのまま昭人の挙げられた右手から魚を奪っていく。
「これが失敗したら、奴隷商ぶん殴って夜逃げすっか」
昭人は僅かに震える手足を気楽な独り言で無理矢理押さえ込み、目的地に向かう。返済日まで日数は残っているが、今日ですべてが決まる。
~~時間は少し遡る~~
「この前言ってたネタ。まだ売れてないんだろ?」
「よくいらっしゃいました。怪我をなされたと風の噂に聞きまして心配しておりましたよ。復帰祝いに私からの奢りで一杯如何です」
そこは商店街と繁華街の中間にあるBar、クエスト屋が常駐する店。
「怪我する程切羽詰まってる原因もどうせ掴んでるんだろ。それで答えはどっちだ」
「これでも情報で食べてるクエスト屋の端くれ。あのアマリリスに目をつけたれた事は同じ男として同情しやてますですよ」
昭人の現状を知っておきながら、ここにきて飄々と本題に入ろうとしないクエスト屋に苛立ったのか、カウンターを叩く音が店内に響く。
「短気は損気と申しまして。・・・本題前の雑談が商談には大事なんですがねぇ。先日の遺跡クエストの事でしたら、50枚と発見物の7割でお売りいたしますよ」
「こっちは商売人になる気はないんでな。それより、こないだ言ってた値段より上がってるぞ! 足元見てんじゃねぇ0割だ」
「心情と商売は別。このクエストは本物の匂いがぷんぷんしてくる一品ですゆえ、これでもお安い値段かと」
「そういいながらも今だに売れてないんだろ。0割」
「うっ痛い所をついてきますねぇ。だからって旦那に売らなきゃいけない物でもありませんぜ。6割」
「散々ガセネタばかり扱ってたクエスト屋に、今更遺跡クエスト買うバカが他にいるかよ」
「・・・わかりましたよ。ただし70枚で。よろしいですね」
~~時間を戻して砂海上~~
「結局言われるがまま70万で宝の地図を買うバカ、それが俺。もう遅いけど、日本で社会勉強もっとするべきだったな」
強い日差しの中、ライマールが曳く舟に乗って一時間。水平線の彼方にかろうじて見える陸地を目印に進む。
そこは砂の本流がぶつかり渦を巻く地点の程近く。危険すぎて他の船も訪れず、釣りをするにも深すぎて向いてないポイント。
「それらしき場所に人がいるんだが、まさかな」
昭人の進行方向。交易船のルートからも外れている箇所に、船陰が見える。
姿形が見える程近づくと、ヤシガニ似の砂獣に船を曳かせた相手は慌てている様子が見て取れる。
舌打ちをする昭人。この場に他人が居ると言う事は、絶対のタブーである情報の重複売りをクエスト屋がしたのはもはや間違いない。
昭人のそれとは違い、10人は乗り込めそうな船の脇には大きく『ロビンソン印のレンタルシップ』と描かれ、船からはガチガチッとアンカーが空回る音が聞こえる。
「そこのあんた! 見えないで手伝いなさいよ!」
「なぁまさかと思うが、クエスト屋から買ったのか?」
「そうよ。私が高いお金払って買ったんだから。いいから早く手伝いなさい」
「俺も購入したんだよ。残念な事にな」
「それがどうしたのよ私が先に見つけたんだからね。それより早く。もう鎖が切れそうなのよ」
舟を横に着けつつも鎖の様子を見て、本当に危ないようなので本題を切り出す。
「発見物は折半で文句はないな」
「・・・なんでもいいから早くして!! ホントに限界なのよ」
昭人が所有するアンカーよりも上等であろうアンカーの鎖が伸びて今にもちぎれそうだ。
重さからみるに遺跡級に間違いないだろうし、ここでこの口の悪い少女のアンカーが切れてしまうと、昭人の1隻だけでは引き上げどころか固定する事すら到底無理だろう。
交渉と言えない交渉を終え、昭人がレバーを引くと鎖毎アンカーが砂に沈む。
「こちらも自分の人生が懸かってもんで悪く思わないでくれ。大分引き上げてたんだな、ほらヒットしたぞ」
急にテンションが掛かり砂中に飲み込まれそうになる舟をライマールが耐えて維持させる。
「ぐっ想像してたより重い。そっちのあんた巻き上げ速度を合わせろ。このままじゃアンカーが・・・」
「あんたなんて下品な呼び方やめなさい。私にはソフィア=ローレンス=ランズーンって名前があるの」
「なげぇよ。ソフィアでいいな。このままじゃ俺達の船が邪魔で揚がりそうにないから、距離をとる。慎重にな」
「命令しないでよ。・・・・・あっ出て来たわ」
距離をあけた昭人とソフィアの船の間から遺跡が顔を出すが、これまでの無茶と横からの加重でソフィアの鎖が限界を越え弾け飛ぶ。
「あ〜高かったのに。これは必要経費として差し引いて貰うわよ」
「わかったからみみっちい事言うな、一部しか出てないのにこの大きさだ。金貨数百枚じゃきかないぞ」
「そっそうね。はやくしらべましょ」
昭人はライマールに、遺跡の保持を頼む。彼のアンカーが外れれば、近い将来遺跡は砂流に乗って沈んでしまうだろう。
ライマールと、ソフィアが乗ってきた背中に大きく丸の中にロと描かれた巨大なヤシガニ型の砂獣を連結し、2人は準備を整える。
メインヒロインようやく登場^^
そしてヒロインの描写が無いのにロビンソン印はしっかりとw
ぼっちの反動なのか、ここから先は作者が飽きるまで会話文大増量でお送りいたします。