手痛い洗礼
岩石猿が残した鉱石を袋に詰め、歩く。
折れてしまった左腕は骨が出るまでは至っていなかった物の腫れ上がり、全身が熱を発しているのに脂汗で震えるほど体が冷え切ってる。
背負い袋は重いが、全財産が詰まっている。生きて街に戻るのと同じぐらい財産が入った背負い袋も大事だった。
「どうやって骨接ぎするかなんてしらねぇよ。・・・向こうでもっと知識増やしておけばよかった」
昭人はききかじりの知識を試そうとはしたものの、張本人では骨の位置を合わせる所か、満足に折れた腕を掴むことも出来ず、揺らしてこれ以上悪化しないように気をつけることしかできなかった。
「ここは・・・街までたどりつけたのか」
昭人の目線の先には見知らぬ天井が映っていた。
「金!!袋は」
命綱である背負い袋を確認しようとし、そこで初めて自分の左腕が固定されていることに気付く。青臭い匂いのする包帯を見て苦笑する昭人。
魔獣に襲われて命があった事を先に祈るべきだった。幸い背負い袋は、横に据えられた棚に納められている。
天井には覚えがないが、怪我をした人間を治療する場所は限られている。おそらく病院なのだろう。
「おっ起きたかい。調子はどうだ?」
タイミングよく部屋に入ってきたのは白衣を着ているので医者だろう初老の男性。薬草の匂いなのか、彼も独特の匂いをさせている。
「助けていただいてありがとうございます。・・・痛みは無いですね」
「助けたのは門番だ。あぁ先に行っておくが、お前さんが持ってた現金を治療費に充てさせてもらったぞ。」
「勝手に使ったのですか」
昭人の眉間に皺が寄る。助けてもらったのはありがたいが、あのお金は勝手に使われて惜しくない物ではない。
「何言っとる現金持ってた事に感謝しろ。カードに全財産入ってたらおっぽりだしてしまいじゃったぞ。
憤るだけの気力があるならまた稼ぐといい。5日もあれば骨もくっつくじゃろう」
日本人の感覚とすれば頷きがたいが、これがこの世界の常識なのだろう。
「それでも5日もかかるのか」
昭人の呟きが聞こえたのか、医者が笑いながら答える。
「一瞬で直ったとしたらそりゃ魔法だ。まぁ完治に5日。筋肉が衰えちまうから、元にもどるまではもうちょいかかるだろうな」
骨折が5日で直る事も地球で考えれば異常なのだ。無収入が続いた事で焦った結果、骨折に治療費を払う上に5日のロスを招いてしまった。
それから入院費用をケチった昭人は左腕を薬草臭い匂いさせ、そのまま漁にでた。
「腕の痛みより今は懐が寒いのが痛すぎる」
次の返済期限まで37日。治療費と薬代で赤字が更に嵩み、デッドラインを越えてしまっている。
大物が出ると噂の漁場で釣り糸を垂れながら頭を悩ませるが、1月で200万以上の純利を叩き出す旨い話なぞ有るわけも無い。
と、その時舟の下では巨大な魚影姿を現し周囲の小魚は逃げまどう。
昭人が乗る舟と同等の大きさの魚影が餌を発見し、食いついた。
金策で頭が一杯になっている昭人に気付かれぬまま、餌だけをくわえた巨大魚は悠々と砂の底に消えて行った。
窓からスラム街を見つめている。
ただ真似している時はわからなかったが、昭人が注意深く観察していると広場で訓練している冒険者は明らかに戦闘を意識して訓練をしていた。おそらくは自分より大きな相手、そして両手の凪払いと叩きつぶしに噛みつきと遠距離からの攻撃をする敵を想定して冒険者は位置取りをしている。
完治するまでの5日間は、早朝に右手での訓練。これを続けてわかったが、剣(俺が使ってるのは鉈だが)の使い方は限られていた。
右袈裟から振り下ろしをすれば、手首を反して左から斬り上げかバックブローの様に一回転して右からの攻撃。
手に持っている以上、間接の可動域があり
触れただけでは斬れないから勢いをつけないといけない。
これを気付いてからただの素振りを辞め、仮想敵の動きを考えて素振りをした。
ゆっくりと、かつ動きを止めずに。
昭人が仮想敵にするのは当然岩石猿。長い右腕を振り回してくる。1歩後ろに下がり避ける。右腕が通過すると距離を詰め、一撃。そのまま時計回りに進み離脱。
「くそっ、なんで想像の猿に負けるんだ」
前に出て被害を最小限に抑えるパターンなど考えうる行動を、ゆっくりと且つ動作を止めずに続けていく。
昭人は左腕が完治するまでの間、午前中は訓練。午後からは漁を続けた。
前回の失敗を踏まえ登場人物を減らしたら、主人公がぼっちになりましたw
次回ようやくヒロイン登場でございます~~