表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホテルマン異世界転生_ようこそ、終焉の宿へ ~ブラック企業のナイトオーディターは異世界で"ウォーキング"を極める~  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/40

第三十六話 裏切りの夜

改革を始めてから、二週間が経った。


その夜、遼太郎は皇城内の自室で、一人で過ごしていた。


窓の外には、黒い塔がそびえ立っている。クロノスの居城だ。


「そろそろ、動きがあるかもしれない……」


遼太郎は、呟いた。


ホテルの改革は、順調に進んでいる。スタッフは活気を取り戻し、客からの評判も上々だ。


しかし、それはクロノスの方針に反することでもあった。恐怖による支配を、遼太郎は真っ向から否定している。いつ、クロノスが介入してきてもおかしくない。


コンコン。


扉をノックする音がした。


「どうぞ」


入ってきたのは、バルドスだった。


「リョウ。話がある」


「何でしょうか」


バルドスは、扉を閉め、声を潜めた。


「皇帝陛下が、お前に会いたいと言っている」


遼太郎の心臓が、跳ねた。


「皇帝陛下が……」


「ホテルの改革のことを聞いたらしい。どういうつもりか、直接聞きたいと」


「……分かりました」


「怖くないのか」


「怖いですよ。でも、避けられることではありません」


遼太郎は立ち上がった。


「案内してください」


「待て。その前に、話がある」


バルドスは、遼太郎を真っ直ぐに見つめた。


「俺は、お前の味方だ」


「え……」


「この二週間、お前のやることを見てきた。スタッフが変わっていく様子を、見てきた。そして、俺自身も……変わった気がする」


バルドスの目には、強い決意が宿っていた。


「お前は、この国を変えられるかもしれない。俺は、それに賭ける」


「バルドスさん……」


「だから、俺はお前を守る。何があっても」


遼太郎は、その言葉に胸が熱くなった。


「ありがとうございます」


「礼は、全部終わってからだ。行くぞ」


二人は、皇城の奥へと向かった。


長い廊下を歩き、いくつもの扉を通り抜けていく。


やがて、巨大な扉の前に着いた。


「ここだ。皇帝陛下の謁見の間」


バルドスが、扉を開けた。


中に入ると、そこは広大な空間だった。


高い天井、金の装飾、大理石の床。正面には、一つの玉座がある。


そして、その玉座に——


「来たか」


クロノス。いや、黒須剛志が、座っていた。


遼太郎は、五年ぶりに元上司の顔を見た。


黒い髪、鋭い目、冷たい表情。しかし、その顔には、以前はなかった疲労の色が見えた。目の下には隈があり、肌は青白い。


「久しぶりだな、佐伯」


クロノスが言った。


「はい。お久しぶりです、黒須……いえ、皇帝陛下」


「堅苦しいな。ここでは、二人きりだ。昔の呼び方でいい」


「……黒須さん」


クロノスは、玉座から立ち上がった。


「お前のホテルでの活動、聞いた。スタッフを焚きつけて、俺のやり方を否定している、と」


「否定しているつもりは、ありません」


「じゃあ、何だ」


「改善です。よりよいサービスを提供するために」


「サービス、か」


クロノスの口元が、歪んだ。


「お前は、昔からそればかり言っていたな。『お客様のために』『サービスの心』……くだらない」


「くだらなくはありません」


「くだらないさ。サービスなんて、奴隷の仕事だ。客は金を払う。俺たちは、その金を受け取る。それだけの関係だ」


「違います」


遼太郎の声が、強くなった。


「サービスは、人を幸せにする仕事です。お客様の笑顔を見るために、私たちは働いている」


「甘いな」


クロノスは、嘲笑した。


「そんなことを言っているから、お前はいつまで経っても底辺なんだ」


「底辺でも構いません。私は、自分の仕事に誇りを持っています」


「誇り……」


クロノスの目が、わずかに揺らいだ。


「お前は、何も分かっていない。この世界は、弱肉強食だ。強い者が勝ち、弱い者は踏みにじられる。それが、真理だ」


「それは、真理ではありません」


「黙れ!」


クロノスが叫んだ。


その瞬間、彼の体から黒い靄が立ち上った。


「お前みたいな奴が、俺に説教するな!」


黒い靄が、遼太郎に向かって襲いかかる。


「リョウ!」


バルドスが、遼太郎の前に飛び出した。


「バルドスさん!」


「逃げろ! 俺が時間を稼ぐ!」


「でも……」


「いいから! お前は、まだやることがある!」


バルドスは、剣を抜いて構えた。


「皇帝陛下。俺は、あなたに仕えてきました。しかし、今日……俺は、この男の側につきます」


「バルドス……お前もか」


「はい。この男は、俺に教えてくれました。笑顔の大切さを、人を幸せにする喜びを」


バルドスの目には、涙が浮かんでいた。


「俺は、もうあなたの駒にはなりません。自分の意志で、生きていきます」


「……愚かな」


クロノスの目が、虚ろになった。


「ならば、消えろ」


黒い靄が、バルドスに向かって放たれる。


「やめろ!」


遼太郎が叫んだ。


その瞬間、彼の体から光が溢れた。


ウォーキングの力だ。


光が、黒い靄を弾き返した。


「なっ……」


クロノスが、目を見開いた。


「お前、その力は……」


「私は、諦めません」


遼太郎は、クロノスを真っ直ぐに見つめた。


「あなたを、救います」


「俺を、救う……?」


「はい。あなたは、虚無に支配されている。でも、本当のあなたは、そうじゃないはずです」


「何を言っている……」


クロノスの顔が、歪んだ。


「俺は、誰にも支配されていない。俺が、支配する側だ」


「違います。あなたは、苦しんでいる」


遼太郎は、一歩近づいた。


「私には、見えます。あなたの心の中で、何かが暴れている。それを、抑えるのに必死になっている」


「黙れ……」


「黒須さん。あなたは、なぜあんなに冷たい人間になったのですか」


「……」


「元の世界で、何があったのですか」


クロノスの表情が、一瞬だけ揺らいだ。


「そんなこと……お前に関係ない」


「関係あります。私は、あなたの部下でした。そして、あなたに苦しめられました」


「……」


「でも、今は違います。私は、あなたを許したいと思っています。そして、あなたを救いたいと思っています」


「許す……?」


クロノスは、遼太郎を睨みつけた。


「お前に、俺を許す資格なんてない」


「資格は関係ありません。私は、宿屋の主人です。全ての客を受け入れる。それが、私の仕事です」


「客だと……?」


「はい。あなたも、私の客の一人です。嫌いな客も、苦手な客も、私は全員を迎え入れます」


遼太郎は、手を差し伸べた。


「黒須さん。一緒に、やり直しませんか」


クロノスは、その手を見つめていた。


長い沈黙が流れた。


「……くだらない」


クロノスは、遼太郎の手を払いのけた。


「お前の甘言に、騙されるものか」


「黒須さん……」


「俺は、自分の道を行く。お前も、好きにしろ」


クロノスは、謁見の間を去っていった。


残されたのは、遼太郎とバルドスだけだった。


「……行ってしまった」


バルドスが、呟いた。


「はい。でも、まだ終わりではありません」


遼太郎は、クロノスが去った方向を見つめた。


「彼の心には、まだ何かが残っている。諦めません」


「お前は、本当に……」


「宿屋の主人ですから」


遼太郎は、微かに笑った。


「全ての客を、幸せにする。それが、私の仕事です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ