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ホテルマン異世界転生_ようこそ、終焉の宿へ ~ブラック企業のナイトオーディターは異世界で"ウォーキング"を極める~  作者: もしものべりすと


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第三十四話 帝国の宿

帝都での活動は、少しずつ広がっていった。


遼太郎が滞在していた宿の評判が、口コミで伝わり始めたのだ。


「あそこの宿、最近変わったらしいぞ」


「ああ。部屋が綺麗だし、朝飯が美味い」


「変な旅人が来てから、急に良くなったって」


噂を聞いた人々が、少しずつ宿を訪れるようになった。


「いらっしゃいませ」


遼太郎は、入ってくる客を笑顔で迎えた。


「こちらへどうぞ」


客たちは、最初は戸惑った表情をしていた。笑顔で迎えられることに、慣れていないのだ。


しかし、滞在を終える頃には、彼らの表情も柔らかくなっていた。


「ありがとう。また来るよ」


「気をつけてお帰りください」


遼太郎は、深く頭を下げた。


ある日、一人の男が宿を訪れた。


「泊まりたいんだが」


見るからに、軍人のような風貌だった。厳つい顔、鋭い目。しかし、その目には、疲労の色が見えた。


「かしこまりました。お部屋にご案内します」


遼太郎は、いつも通りに対応した。


部屋に案内すると、男は窓辺に立ち、外を見つめていた。


「あの黒い塔が見えるか」


「はい」


「あれが、皇城だ。皇帝陛下がおられる場所」


「……そうですか」


「俺は、あそこで働いている。近衛兵としてな」


遼太郎は、少し緊張した。


近衛兵。クロノスの直属の部下ということだ。


「お仕事、大変でしょう」


「ああ。大変だ」


男は、深いため息をついた。


「最近、皇帝陛下の様子がおかしい」


「おかしい……とは」


「時々、一人で何かと戦っているような様子を見せる。頭を抱えて、苦しそうにして」


遼太郎は、その言葉に耳を傾けた。


「俺たちは、何もできない。ただ見ているだけだ」


男の声には、苦悩が滲んでいた。


「皇帝陛下は、偉大な方だ。この国を、強くしてくださった。しかし、最近は……」


「最近は?」


「何か、追い詰められているような。虚無に飲み込まれそうな」


遼太郎は、黙って聞いていた。


男は、遼太郎を見た。


「お前、宿屋の人間らしいな」


「はい。旅の途中で、この宿を手伝っています」


「そうか……」


男は、窓から目を離した。


「なんでだろうな。お前と話していると、少し楽になる」


「私は、ただ話を聞いているだけです」


「それがいいんだ。この国では、誰も話を聞いてくれない。みんな、自分のことで精一杯だから」


男は、ベッドに腰を下ろした。


「今夜は、ゆっくり眠れそうだ」


「おやすみなさい」


遼太郎は、部屋を出た。


翌朝。


男は、すっきりとした表情でチェックアウトした。


「世話になった」


「いえ、こちらこそ。またのお越しをお待ちしております」


「ああ。また来る」


男は、去り際に振り返った。


「お前、名前は?」


「リョウと申します」


「リョウか。覚えておく」


男は、宿を後にした。


「あの人、近衛兵だったのね」


セレスティアが、遼太郎の隣に来た。


「はい。クロノスの側近のようです」


「大丈夫? 正体がバレたら……」


「大丈夫です。私は、ただの宿屋の手伝いですから」


遼太郎は微笑んだ。


「それに、彼は敵ではありません。ただ、苦しんでいる人間の一人です」


「苦しんでいる……」


「はい。この国の人々は、みんな苦しんでいます。クロノスに支配されて、希望を失って。でも、それは彼らのせいではない」


遼太郎は、窓の外を見た。


「クロノスを止めれば、この国は変わる。人々は、また笑えるようになる」


「そのために、私たちは来たのよね」


「はい」


「皇城への潜入、いつ決行するの」


「もう少し、情報を集めてからです。あの近衛兵が、また来てくれるといいのですが」


数日後。


近衛兵の男が、再び宿を訪れた。


「また来たぞ」


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」


遼太郎は、笑顔で迎えた。


「なんか、ここに来ると落ち着くんだ」


「光栄です」


男は、同じ部屋に泊まった。


夕食時、遼太郎は男と一緒に食事をした。


「リョウ、お前はどこから来たんだ」


「遠くからです」


「遠く……」


「詳しくは言えませんが、この国とは違う場所です」


「そうか」


男は、スープを啜りながら言った。


「この国は、昔はこんなじゃなかった」


「そうなのですか」


「ああ。五年前、皇帝陛下が来る前は、もっと穏やかだった。人々は笑っていたし、街は活気があった」


「五年前……」


「皇帝陛下は、確かにこの国を強くした。軍を増強し、領土を広げ、周辺国を従えた。しかし、その代わりに……」


男の声が、小さくなった。


「人々は、笑わなくなった。希望を失い、ただ生きているだけになった」


「それは、悲しいことですね」


「ああ。俺も、最近は笑い方を忘れた気がする」


遼太郎は、男の顔を見つめた。


「笑い方は、忘れませんよ」


「え?」


「人間は、どんな状況でも、笑うことができます。それは、人間だけが持つ特別な力です」


「特別な力……」


「はい。笑顔は、周りの人を幸せにします。そして、自分自身も幸せにします」


遼太郎は、微笑んだ。


「だから、私は笑います。たとえ、辛い時でも」


男は、しばらく遼太郎を見つめていた。


そして、ゆっくりと口角を上げた。


「……こうか?」


「はい。いい笑顔です」


「なんか、変な気分だな。久しぶりに笑った」


「これからは、もっと笑ってください。笑顔は、伝染しますから」


男は、首を傾げた。


「お前、不思議な奴だな。なんでそこまで、他人のことを気にするんだ」


「それが、私の仕事だからです」


「仕事……」


「はい。お客様を幸せにすること。それが、宿屋の仕事です」


男は、黙ってスープを飲んだ。


しばらくして、ポツリと言った。


「お前みたいな奴が、もっといれば、この国も変わるかもな」


「変わりますよ。必ず」


遼太郎は、確信を込めて言った。


「人は、変われます。国も、変われます。そのために、私はここにいるのです」


男は、遼太郎の目を見つめた。


「……お前、本当に何者だ」


「ただの宿屋の主人です」


遼太郎は微笑んだ。


翌朝、男はチェックアウトする前に、遼太郎を呼んだ。


「一つ、頼みがある」


「何でしょうか」


「皇城に、来ないか」


遼太郎は、息を呑んだ。


「皇城に……?」


「ああ。皇帝陛下のお抱えの宿が、最近評判が悪くてな。お前なら、何か改善できるかもしれない」


「私が、皇城に……」


「もちろん、強制じゃない。危険かもしれないし、断っても構わない」


男は、真剣な顔で言った。


「でも、お前と話していて、思ったんだ。皇帝陛下にも、お前のような人間が必要なのかもしれないって」


遼太郎は、考え込んだ。


これは、チャンスだ。皇城に入り、クロノスに近づくことができる。


しかし、同時に危険でもある。正体がバレれば、消されるかもしれない。


「……行きます」


遼太郎は、決意を込めて言った。


「皇城に、行かせてください」


男の顔が、わずかに緩んだ。


「そうか。ありがとう」


「こちらこそ。この機会を、ありがとうございます」


遼太郎は、深く頭を下げた。


いよいよ、クロノスとの対面が近づいていた。

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