第二十七話 宣戦布告
戦争は、突然始まった。
ある朝、王都の城門の前に、虚無帝国の使者が現れた。彼が持っていたのは、クロノスからの宣戦布告状だった。
「虚無帝国皇帝クロノスは、エルディア王国に対し、正式に宣戦を布告する」
使者の声が、城門前に響いた。
「三日以内に降伏しない場合、全面戦争を開始する」
使者は、それだけ告げると、馬を駆って去っていった。
王都は、騒然となった。
「戦争だ!」
「虚無帝国が攻めてくる!」
「どうしよう……」
人々は、パニックに陥りかけた。
しかし、アレクサンダー王子が、すぐに声明を発表した。
「我々は、屈しない」
王宮の前で、彼は民衆に向かって宣言した。
「虚無帝国の脅迫には、決して屈しない。我々は、この国を守る。最後の一人になるまで、戦い続ける」
民衆から、歓声が上がった。
「王子様万歳!」
「エルディア王国万歳!」
しかし、遼太郎は冷静だった。
「始まったな……」
彼は、宿の窓から、騒がしい街を眺めていた。
戦争が始まる。
多くの人が死ぬ。
そして、クロノスが勝てば、この世界は滅びる。
「どうすればいい……」
遼太郎は、自問した。
自分にできることは、何か。
宿屋の主人として、この状況で何ができるのか。
「リョウ様」
リリアが、声をかけてきた。
「避難民が、街に押し寄せているそうです」
「避難民……」
「国境付近の村々から、多くの人が逃げてきていると。でも、収容する場所が足りないらしいです」
遼太郎の目が、光った。
「……そうか」
「リョウ様?」
「避難民を、受け入れましょう」
「避難民を……うちの宿で?」
「はい。全ての部屋を、開放します」
リリアは、驚いた顔をした。
「でも、お金を払えない人も多いでしょう……」
「構いません。今は、そんなことを言っている場合ではありません」
遼太郎は、すぐに行動を開始した。
「リリアさん、ハンスさん、ネリーさん。全員、集まってください」
スタッフが集まると、遼太郎は説明した。
「これから、避難民を受け入れます。部屋は全て開放し、食堂も寝床として使います。食事も、できる限り提供します」
「でも、食材は足りるのですか……」
ハンスが心配そうに尋ねた。
「足りなければ、調達します。王宮にも協力を求めます」
「リョウ様……」
「私たちは、宿屋です。困っている人に、屋根と食事を提供する。それが、私たちの仕事です」
遼太郎の声には、強い決意が込められていた。
「今こそ、その仕事を全力でやりましょう」
「……はい!」
スタッフたちが、力強く答えた。
避難民の受け入れは、その日から始まった。
最初は、数十人だった。しかし、日が経つにつれて、その数は増えていった。
「お願いします……子供がいるんです……」
「屋根の下で眠りたい……」
「何日も、食べていなくて……」
人々は、疲れ切った顔で、宿の前に列を作った。
遼太郎は、できる限り多くの人を受け入れた。
部屋は満員になった。
食堂も、ロビーも、廊下も、人で溢れた。
「これ以上は、入りきらない……」
リリアが、困った顔で言った。
「中庭にテントを張りましょう」
「テントを……」
「星降り亭で、やっていたことです。屋外でも、屋根があれば、少しはマシです」
遼太郎は、村の職人に連絡を取り、テントを急遽調達した。
中庭に、テントが並んだ。
さらに多くの避難民が、そこに収容された。
「リョウ、すごいわ……」
セレスティアが、宿を訪れて言った。
「こんなにたくさんの人を、受け入れているなんて」
「まだ足りません」
遼太郎は、首を振った。
「街には、もっと多くの避難民がいます。私たちにできることは、限られています」
「でも、できることをやっている。それが、大切なのよ」
セレスティアは、遼太郎の手を握った。
「私も、手伝うわ。王宮から、食料と毛布を調達する」
「ありがとうございます」
二人は、協力して避難民の支援を続けた。
そんな中、一人の老人が、遼太郎に声をかけてきた。
「あんたが、ここの主人かい」
「はい」
「ありがとうな。あんたのおかげで、孫を安全な場所で眠らせることができた」
老人の目には、涙が浮かんでいた。
「わしらの村は、虚無帝国の軍に焼かれた。何も残っていない。でも、あんたたちが受け入れてくれたおかげで、生きていける」
「お礼には及びません」
遼太郎は、老人の手を取った。
「これが、私たちの仕事です」
「仕事……そうか、仕事か」
老人は、涙を拭いた。
「いい仕事だな。誇りに思っていいぞ」
「……ありがとうございます」
遼太郎の胸に、温かいものが広がった。
これが、自分の仕事だ。
困っている人を助けること。
安心を提供すること。
「これでいいんだ」
彼は、心の中で呟いた。
「これが、私のやるべきことなんだ」
その夜。
遼太郎は、ゴブ爺の手紙を読み返していた。
「繋がりを作る力……」
今、自分がやっていることは、まさにそれだ。
避難民との繋がり。スタッフとの繋がり。セレスティアとの繋がり。
無数の繋がりが、この宿を支えている。
「ウォーキングの力が、高まっている気がする……」
彼は、自分のステータスを確認した。
【スキル】
・宿屋管理者Lv.3
・ウォーキング Lv.2
ウォーキングのレベルが、上がっていた。
「やはり、繋がりが鍵なのか……」
遼太郎は、窓の外を見た。
夜空には、星が輝いている。
しかし、その向こうには、戦争の暗雲が迫っていた。
「クロノス……」
遼太郎は呟いた。
「お前との決着は、まだ先だ。でも、必ずつける」
そのために、今は力を蓄える。
繋がりを作り、ウォーキングの力を高める。
「待っていろ」
彼は、静かに決意を固めた。




