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ホテルマン異世界転生_ようこそ、終焉の宿へ ~ブラック企業のナイトオーディターは異世界で"ウォーキング"を極める~  作者: もしものべりすと


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第十七話 黒須の影

ヴィクターが去ってから、数日後。


遼太郎は、再び不穏な情報を耳にした。


「虚無帝国が、エルディア王国との国境に軍を集めているそうだ」


それは、宿に泊まった冒険者からの情報だった。


「軍を……?」


「ああ。戦争の準備をしてるって噂だ」


「戦争……」


遼太郎の顔が、引き締まった。


「詳しいことは分からん。でも、気をつけた方がいい。この辺りも、巻き込まれるかもしれない」


「ありがとうございます。貴重な情報です」


冒険者が去った後、遼太郎はセレスティアとゴブ爺を呼んだ。


「聞きましたか」


「ええ、聞いてたわ」


セレスティアの顔は、蒼白だった。


「また、戦争が始まるの……」


「まだ分かりません。でも、準備は必要です」


「準備って、何をすればいいの」


「まず、情報を集めましょう。何が起きているのか、正確に把握する必要があります」


遼太郎は言った。


「そして、最悪の事態に備えて、避難計画を立てておきましょう」


「避難計画……」


「戦争が起きれば、多くの避難民が出ます。この宿が、彼らの受け皿になるかもしれません」


「受け皿……」


セレスティアは、考え込んでいた。


「三年前の戦争の時も、多くの人が逃げてきたわ。でも、その時は……」


「その時は?」


「父が、彼らを守るために戦って……死んだの」


セレスティアの声が、震えていた。


「同じことを、繰り返したくない」


遼太郎は、彼女の肩に手を置いた。


「繰り返しません。今度は、私たちがいます」


「リョウ……」


「一人で戦う必要はありません。みんなで力を合わせれば、乗り越えられます」


セレスティアは、遼太郎の目を見つめた。


そこには、確かな決意が宿っていた。


「……分かったわ。あなたを信じる」


「ありがとうございます」


その夜。


遼太郎は、一人で地下の聖室を訪れた。


星核が、静かに光を放っている。


「結界強度、78%……」


このまま行けば、一ヶ月で100%に到達するだろう。しかし、戦争が始まれば、状況は一変する。


「クロノス……いや、黒須」


遼太郎は、声に出して呟いた。


「お前は、いったい何を考えている」


答えは、返ってこなかった。


彼は、星核を見つめながら、過去のことを思い出していた。


黒須剛志。


遼太郎の元上司。宿泊部長。パワハラ・モラハラの常習犯。


「お前は使えない」


「お前の代わりはいくらでもいる」


「お前みたいな奴がいるから、うちのホテルの評価が下がるんだ」


毎日、毎日、繰り返された言葉。


遼太郎の心を、少しずつ削っていった言葉。


黒須は、決して怒鳴るわけではなかった。いつも、冷静な声で、淡々と遼太郎を否定した。その冷たさが、かえって辛かった。


「客は金だ」


黒須はよく言っていた。


「サービスなんて、奴隷の仕事だ。大事なのは、いかに効率よく金を稼ぐか。それだけだ」


遼太郎は、その考えに反発を覚えていた。しかし、声に出して反論することはできなかった。黒須は、絶対的な権力を持っていたから。


そんな黒須が、この世界に転生していた。


しかも、一国の皇帝として。


「あいつは、この世界でも同じことをしているんだろうな」


遼太郎は呟いた。


「客を金としか見ない。人を道具としか思わない」


そして、世界を滅ぼそうとしている。


「許せない」


遼太郎の手が、握りしめられた。


「絶対に、許せない」


翌日。


また一人、虚無帝国からの客が訪れた。


今度は、商人ではなく、旅人を装った男だった。しかし、その目つきは、明らかに普通の旅人ではなかった。


「いらっしゃいませ」


対応したのは、マルクスだった。


「泊まりたいんだが」


「かしこまりました。お名前をお教えいただけますか」


「……グレン」


男は、少し間を置いて答えた。


「グレン様ですね。本日は、どのようなお部屋をご希望でしょうか」


「安い部屋でいい」


「では、テント泊プランはいかがでしょうか。屋外ですが、星空が綺麗に見えます」


「いや、中がいい」


「かしこまりました。では、二階の六号室をご用意いたします」


マルクスは、手際よく手続きを進めた。


男……グレンは、部屋に入ると、すぐに宿の中を歩き回り始めた。まるで、何かを探しているかのように。


「リョウ様」


マルクスが、遼太郎のところに来た。


「あの客、怪しいです」


「怪しい……?」


「目つきが、普通じゃありません。それに、宿の中をやたらと見て回っています」


「また、虚無帝国の間者かもしれませんね」


遼太郎は、顔をしかめた。


「注意して見ていましょう」


その夜。


遼太郎は、グレンの部屋の前を通りかかった。


扉は閉まっているが、中から声が聞こえた。


「……そうだ。この宿は、間違いない」


独り言だろうか。それとも、誰かと話しているのか。


「結界が強化されている。普通の宿ではない」


遼太郎は、耳を澄ませた。


「皇帝陛下に報告する必要がある。この宿は、危険だ」


皇帝陛下。


それは、クロノス……黒須のことだろう。


「やはり、間者か……」


遼太郎は、静かにその場を離れた。


翌朝。


グレンは、早々にチェックアウトした。


「世話になった」


「ありがとうございました」


遼太郎が、自ら送り出した。


「また来るかもしれん」


グレンは、意味深な笑みを浮かべた。


「いつでもお越しください」


遼太郎は、表情を変えずに答えた。


グレンが去った後、遼太郎はスタッフを集めた。


「あの男は、虚無帝国の間者でした」


「やっぱり……」


セレスティアが、唇を噛んだ。


「彼は、この宿の情報を、皇帝に報告するつもりです」


「皇帝……クロノスに」


「はい。私たちの宿は、虚無帝国に目をつけられました」


スタッフたちの間に、緊張が走った。


「でも、慌てる必要はありません」


遼太郎は言った。


「私たちは、ただ宿屋を営んでいるだけです。何も悪いことはしていません」


「でも、クロノスは……」


「あいつが何を考えていても、私たちにできることは変わりません。目の前の客に、最高のサービスを提供する。それだけです」


遼太郎は、スタッフたちを見回した。


「怖がる必要はありません。私が、皆さんを守ります」


「リョウ様……」


「さあ、今日も一日、頑張りましょう」


スタッフたちは、頷いた。


しかし、その表情には、隠しきれない不安が浮かんでいた。


その夜。


遼太郎は、一人で星空を見上げていた。


「黒須……」


彼は呟いた。


「お前は、いつかこの宿を攻撃してくるのか」


答えは、分からない。


しかし、一つだけ確かなことがある。


「逃げない」


遼太郎は、決意を固めた。


「何があっても、この宿を守る。スタッフを守る。セレスさんを守る」


星だけが、静かに瞬いていた。

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