第一話 夜勤明けの終わり
午前四時十七分。
佐伯遼太郎は、自分の指先が震えていることに気づいた。
それは寒さのせいではなかった。真夏の東京、空調の効いたバックオフィスの中で、彼の体は内側から凍えていた。蛍光灯の白い光が、積み上げられた伝票の山を無慈悲に照らし出している。クレジットカード端末の集計結果と、PMS――ホテルの基幹システム――の売上データ。その数字が、どうしても一致しない。
差額、三百七十二円。
たった三百七十二円。されど三百七十二円。
ナイトオーディターにとって、一円の誤差も許されない。それが佐伯遼太郎という男が、この三年間で骨の髄まで叩き込まれた鉄則だった。日付が変わる前にすべての売上を確定させ、翌朝の「モーニングレポート」を作成する。総支配人が出勤する午前七時三十分までに、昨夜起きたすべての出来事を一枚の報告書に凝縮しなければならない。
「佐伯、まだやってんのか」
背後から声がかかった。振り返らなくても、誰の声かは分かっている。夜勤の当直マネージャー、木下だ。
「すみません、あと少しで」
「お前、顔色やばいぞ。土気色っていうか、なんか青白い」
「大丈夫です」
大丈夫ではなかった。最後にまともな食事をしたのがいつだったか、思い出せない。昨日の昼だったか、一昨日だったか。従業員食堂のカレーを三口だけ食べて、残りは捨てた記憶がある。胃が食べ物を受け付けなくなっていた。
木下は肩をすくめて、バックオフィスを出ていった。彼には彼の仕事がある。深夜に酔って暴れた客の対応、エレベーターの故障報告、そして朝食会場の準備確認。ナイトオーディターの帳簿作業など、彼の管轄外だ。
遼太郎は再びモニターに向き合った。
三百七十二円。
どこで狂ったのか。ルームサービスか、バーか、それともミニバーの精算漏れか。一つ一つの伝票を、もう一度最初から確認していく。目が霞む。文字が二重に見える。
ふと、壁にかけられた時計が目に入った。午前四時四十三分。あと三時間弱で、黒須がやってくる。
黒須剛志。宿泊部長。遼太郎の直属の上司であり、この三年間、彼の人生を地獄に変えた男。
「佐伯、お前の仕事は数字を合わせることじゃない。数字が合って当たり前なんだ。合わないのは、お前が無能だからだ」
その声が、耳の奥で反響する。
「ナイトオーディターなんて、誰でもできる仕事だ。お前の代わりなんていくらでもいる。それを忘れるな」
忘れたことなど、一度もなかった。
遼太郎は大学を出て、このホテルに就職した。「一流のホテルマンになりたい」という夢を抱いて。面接では、「お客様に最高のサービスを提供したい」と語った。人事担当者は微笑んで、「君のような情熱のある若者を待っていた」と言った。
配属されたのは、宿泊部のナイトオーディターだった。
夜勤専従。午後十一時から翌朝七時まで。週五日。生活は完全に昼夜逆転し、友人との連絡は途絶え、恋人には「もう会えない」と告げられた。それでも遼太郎は歯を食いしばった。ここを乗り越えれば、いつかフロントに立てる。いつかコンシェルジュになれる。いつか、お客様の顔を見て「いらっしゃいませ」と言える日が来る。
三年が経った。
配置転換の話は、一度も来なかった。
「お前はナイトオーディターに向いてる」と黒須は言った。「人と話すのが苦手だろう。深夜なら客もほとんどいない。お前にはちょうどいい」
それは褒め言葉ではなかった。「お前は表に出せない人間だ」という宣告だった。
三百七十二円。
見つけた。ミニバーの精算だ。三〇二号室のゲストが、チェックアウト時にミニバーの利用を申告しなかった。清掃スタッフが空になったビール缶を発見して伝票を起こしたが、それがPMSに反映される前にクレジットカードの精算が終わっていた。
遼太郎は修正伝票を作成し、備考欄に経緯を記載した。これで辻褄は合う。数字は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつも人間の方だ。
午前五時を回っていた。
残りの作業を片付けながら、遼太郎は昨夜のことを思い出していた。
二十三時十五分。一本の電話がかかってきた。
「すみません、部屋のエアコンが効かないんですけど」
三一五号室のゲストだった。遼太郎は手順通りに対応した。まず謝罪し、状況を確認し、エンジニアリング部門に連絡を入れる。しかし深夜のエンジニアは一人しかおらず、別のフロアで水漏れの対応に追われていた。
「申し訳ございません。ただいま担当者が別件で対応中でして、三十分ほどお時間をいただけますでしょうか」
「三十分? こっちは暑くて眠れないんだよ。金払ってんだぞ」
「重ねてお詫び申し上げます。代替のお部屋をご用意させていただきますので――」
「部屋を変われってのか? 荷物全部広げてんだよ。ふざけんな」
電話の向こうで、男の声が荒くなっていく。遼太郎は受話器を握りしめながら、ひたすら謝り続けた。謝罪の言葉を繰り返しながら、彼の頭の中では別の計算が走っていた。
この客の怒りのレベルは、十段階で七。まだ交渉の余地がある。ポイントは「待たせる時間」と「補償の内容」のバランス。三十分が長すぎるなら、二十分に短縮できないか。エンジニアの現在位置は? 水漏れの対応はあとどれくらいかかる?
「……分かった。二十分だな。二十分で来なかったら、お前の名前覚えとくからな」
「ありがとうございます。佐伯と申します。必ず二十分以内に対応させていただきます」
電話を切った後、遼太郎は全速力でエンジニアのもとへ走った。水漏れの現場は十二階。エレベーターを待つ時間も惜しんで、非常階段を駆け上がった。
息を切らせながら状況を説明し、エンジニアに頭を下げた。「十五分で終わらせます」と彼は言った。遼太郎は三一五号室に戻り、扉の前で待機した。
十八分後、エンジニアが到着した。エアコンの修理には結局四十分かかったが、約束の二十分以内に「対応を開始」したことで、ゲストの怒りは収まった。
「まあ、お前は悪くないよな。ちゃんと走ってきたの、見えてたから」
そう言って、男は笑った。遼太郎も笑顔を返した。お客様の前では、絶対に弱音を吐かない。それがホテルマンの矜持だ。
しかし、その一件は終わりではなかった。
翌朝――つまり今朝、出勤してきた黒須は、夜間の対応記録を見て遼太郎を呼び出した。
「三一五号室の件、お前が対応したのか」
「はい」
「エアコンの故障で、修理に四十分。その間、客を待たせた」
「はい。ただ、お客様には二十分以内に対応を開始するとお約束し、実際に十八分で――」
「言い訳するな」
黒須の声が、ナイフのように遼太郎の言葉を断ち切った。
「客を四十分も待たせて、お前は何をしていた?」
「部屋の前で待機しておりました。お客様に状況をご説明し、進捗をお伝えするために」
「つまり、四十分間突っ立ってただけだな」
「いえ、その間も他の業務を――」
「他の業務? ナイトオーディターの仕事は帳簿だろう。それを放り出して、廊下で突っ立ってた。違うか」
違わなかった。事実、その四十分間で処理すべきだった伝票が溜まり、結果として今、三百七十二円の差額を追いかけることになった。
「お前のせいで、今日のモーニングレポートは遅れる。総支配人に何て説明する?」
「申し訳ございません」
「謝って済むなら警察はいらない。お前、自分が何のためにいるか分かってるのか?」
分からなかった。
三年間、ずっと分からなかった。
自分は何のためにここにいるのか。誰のために働いているのか。お客様のため? 会社のため? 自分のため?
答えは出ないまま、遼太郎は頭を下げ続けた。黒須の説教は十五分続いた。その間、遼太郎の視界の端で、時計の針が無慈悲に進んでいった。
モーニングレポートの締め切りまで、あと四十五分。
「もういい。さっさと仕事しろ」
黒須はそう言って、自分のデスクに戻っていった。遼太郎はバックオフィスに戻り、震える指でキーボードを叩いた。
そして今、午前五時二十三分。
すべての数字が合った。モーニングレポートの作成に取りかかる。昨夜の稼働率は八十七パーセント。平均客室単価は一万八千五百円。RevPARは一万六千九十五円。VIPの到着は三名、うち一名は常連の企業オーナー。特記事項として、三一五号室のエアコン故障と対応経緯。
指が、動かなくなった。
遼太郎は自分の右手を見下ろした。震えている。いや、震えているのではない。痙攣している。意思とは無関係に、指が勝手に動いている。
おかしい。
体が、おかしい。
立ち上がろうとして、膝が崩れた。デスクの角に額をぶつけた。痛みは感じなかった。感じるべき痛みが、どこか遠くへ行ってしまったようだった。
床に倒れ込む。冷たい。リノリウムの床が、頬に張り付く。視界がぼやける。蛍光灯の光が、万華鏡のように歪んでいく。
ああ、これは。
これは、まずいな。
遼太郎の意識は、急速に薄れていった。最後に見えたのは、壁にかけられた時計だった。午前五時二十七分。モーニングレポートの締め切りまで、あと二時間三分。
間に合わない、と思った。
黒須に怒られる、と思った。
それが、佐伯遼太郎がこの世界で抱いた最後の思考だった。
意識が途切れる直前、走馬灯のように記憶が蘇った。
入社式の日。真新しいスーツを着て、同期と肩を並べて立った。人事部長の訓示。「皆さんは今日から、このホテルの顔です」という言葉。胸が高鳴った。自分もついに、一流のホテルマンになれるのだと。
配属発表の日。「佐伯くんは宿泊部ナイトオーディター」と告げられた瞬間の、胸の奥に落ちた小さな石。でも大丈夫、ここからスタートすればいい。いつか必ず、フロントに立てる日が来る。
最初の夜勤。先輩に教わりながら、伝票を一枚一枚処理していった。数字が合ったときの達成感。「筋がいいね」と褒められた嬉しさ。
一年目の終わり。配置転換の希望を出した。「検討します」という返事。結果は、「現状維持」だった。
二年目。同期がフロントに異動した。彼は今、ロビーで笑顔を振りまいている。遼太郎は相変わらず、深夜のバックオフィスで数字と向き合っている。
黒須が宿泊部長に就任したのは、二年目の秋だった。
「お前、目が死んでるな」
初対面で、黒須はそう言った。
「ナイトオーディターなんて、誰でもできる仕事だ。お前みたいな奴には、ちょうどいいだろう」
それから、地獄が始まった。
些細なミスを執拗に責められた。数字が合っていても、「遅い」と怒鳴られた。早く終わらせれば、「雑だ」と叱責された。何をしても、どう頑張っても、黒須は決して遼太郎を認めなかった。
「お前は使えない」「お前の代わりはいくらでもいる」「お前みたいな奴がいるから、うちのホテルの評価が下がるんだ」
毎日、毎日、毎日。
遼太郎の心は、少しずつ削られていった。
それでも辞めなかったのは、意地だった。ここで逃げたら、自分は本当に「使えない人間」になってしまう。黒須の言葉が正しかったことになってしまう。
だから耐えた。歯を食いしばって、耐え続けた。
三年目の夏。体が限界を迎えた。
食事が喉を通らなくなった。眠れなくなった。いや、眠る時間がなくなった。夜勤が終わっても、黒須からのメールが追いかけてくる。「昨日の対応について説明しろ」「なぜこの判断をした」「お前の考えを文書で提出しろ」
休日も、携帯電話を手放せなかった。いつ黒須から連絡が来るか分からない。着信音が鳴るたびに、心臓が跳ね上がった。
そして今夜。
いや、今朝。
佐伯遼太郎は、ついに倒れた。
暗闘の中で、遼太郎は不思議な感覚を味わっていた。
体が軽い。
三年間、ずっと背負っていた重荷が、するりと肩から滑り落ちたような感覚。黒須の声が聞こえない。蛍光灯の光が見えない。伝票の山も、PMSの画面も、モーニングレポートの締め切りも、すべてが遠くへ消えていく。
ああ、これが死ぬということか。
不思議と、恐怖はなかった。
むしろ、安堵に近い感情があった。もう頑張らなくていい。もう耐えなくていい。もう、誰かに怒鳴られることもない。
暗闇の中に、小さな光が見えた。
星だ、と遼太郎は思った。
一つ、二つ、三つ。光の粒が増えていく。やがてそれは無数の星となり、彼の周りを取り囲んだ。
美しかった。
こんなにたくさんの星を見たのは、いつ以来だろう。東京の空では、星など見えない。ネオンと蛍光灯に覆われた街で、夜空を見上げることすら忘れていた。
星々が、遼太郎に語りかけてくるような気がした。
お疲れ様。
よく頑張ったね。
もう、休んでいいんだよ。
遼太郎は目を閉じた。いや、すでに目は閉じているはずだ。でも、確かに目を閉じる感覚があった。意識が、さらに深い場所へと沈んでいく。
星の光が、彼を包み込んだ。
温かかった。
母親に抱かれているような、そんな温もり。遼太郎は最後に、微かに微笑んだ。
そして、完全に意識を手放した。
どれくらいの時間が経ったのか、分からなかった。
最初に感じたのは、匂いだった。
土の匂い。草の匂い。そして、かすかに漂う、古い木材の匂い。
遼太郎は目を開けた。
視界に飛び込んできたのは、木製の天井だった。黒ずんだ梁が、複雑に組み合わさっている。蛍光灯はない。代わりに、窓から差し込む柔らかな光が、部屋を淡く照らしていた。
ここは、どこだ。
遼太郎は体を起こそうとした。節々が痛む。でも、あの重苦しい疲労感はなかった。むしろ、長い眠りから覚めた後のような、奇妙な爽快感すらあった。
「おや、目が覚めましたか」
声がした。低く、しわがれた、しかし品のある声。
遼太郎は声のする方を向いた。
そこに立っていたのは、小柄な老人だった。いや、老人というには、少し様子がおかしい。肌は緑がかった灰色で、耳は尖り、鼻は大きく曲がっている。
ゴブリン。
その言葉が、遼太郎の頭に浮かんだ。ファンタジー小説やゲームに出てくる、あの種族。
「驚かれるのも無理はありません」と、緑色の老人は言った。「私の種族を見るのは、初めてでしょうから」
遼太郎は声が出なかった。喉が渇いている。唇がひび割れている。
「水をお持ちしましょう」
老人は部屋を出ていき、すぐに木製のコップを持って戻ってきた。遼太郎は震える手でそれを受け取り、一気に飲み干した。冷たく、澄んだ水だった。井戸水だろうか。
「……ここは」
ようやく、声が出た。かすれた、自分のものとは思えない声。
「ここは『星降り亭』。アルベルゴ大陸の最果てにある、小さな宿屋でございます」
老人は恭しく一礼した。その動作は、まるで一流ホテルの執事のように洗練されていた。
「私はゴブ爺と申します。この宿で、雑務を担当しております」
アルベルゴ大陸。星降り亭。ゴブ爺。
一つも聞き覚えのない言葉だった。
遼太郎は周囲を見回した。木製のベッド、木製の床、木製の壁。窓の外には、緑の草原が広がっている。電気製品は一つも見当たらない。照明はランプ、暖房は暖炉。
ここは、どう見ても、中世ヨーロッパのような場所だった。
「すみません」と遼太郎は言った。「状況が、よく分からないのですが」
「ごもっともです」とゴブ爺は頷いた。「あなた様は、三日前の夜、この宿の前で倒れておられました。衰弱が激しく、しばらくは意識が戻らないのではと心配しておりましたが……よくぞ目覚められました」
三日前。
遼太郎は記憶を辿った。最後に覚えているのは、バックオフィスの床に倒れ込んだ瞬間。モーニングレポートの締め切りを気にしながら、意識を失った。
そこから、どうやってこの場所に来たのか。
「私は……東京から来たんですが」
「トーキョー?」ゴブ爺は首を傾げた。「申し訳ございません、存じ上げない地名ですな。この大陸のどこかにある街でしょうか」
「いえ、日本の……」
言いかけて、遼太郎は口をつぐんだ。
日本という国を知らない。東京という街を知らない。そして、この老人は、どう見ても人間ではない。
もしかして。
もしかして、これは。
「ゴブ爺さん」と遼太郎は慎重に尋ねた。「この世界には、『魔法』というものは存在しますか」
「もちろんでございます」とゴブ爺は当然のように答えた。「魔法なくして、この世界は成り立ちません。あなた様も、何かしらのスキルをお持ちではないですか」
スキル。
その言葉を聞いた瞬間、遼太郎の視界の端に、何かが浮かび上がった。
半透明の、青白い文字。まるでゲームのステータス画面のような。
【名前】佐伯遼太郎
【称号】なし
【レベル】1
【スキル】
・宿屋管理者Lv.1
・ウォーキング Lv.1
遼太郎は、しばらくその文字を見つめていた。
宿屋管理者。ウォーキング。
聞いたことのないスキル名だった。いや、「ウォーキング」には聞き覚えがある。ホテル業界では、オーバーブッキングの際に客を他のホテルへ案内することを、そう呼ぶ。
なぜ、そんなものがスキルになっているのか。
「どうかなさいましたか」とゴブ爺が尋ねた。
「いえ……」
遼太郎は深呼吸した。
状況を整理しよう。自分は過労で倒れた。そして気がついたら、見知らぬ世界の、見知らぬ宿屋にいた。傍らには、紳士的なゴブリンの老人。視界には、ゲームのようなステータス画面。
これは、いわゆる――
「異世界転生、ですか」
思わず、声に出していた。
「イセカイテンセイ?」とゴブ爺は再び首を傾げた。「申し訳ございません、その言葉も存じ上げません」
当然だ。この世界の住人に、そんな概念があるはずがない。
遼太郎は再び深呼吸した。
混乱している。何が何だか分からない。でも、一つだけ確かなことがある。
自分は、生きている。
あの地獄のような職場から、解放された。黒須の怒声を、もう聞かなくていい。モーニングレポートの締め切りを、もう気にしなくていい。
「……すみません、ゴブ爺さん」
「はい」
「ここは、宿屋なんですよね」
「はい、『星降り亭』と申します。もっとも、最近はお客様もめっきり減りまして……」
ゴブ爺の表情が、わずかに曇った。
「失礼ですが、この宿は今、営業しているんですか」
「形だけは。ただ、経営は火の車でございます。このままでは、いずれ……」
老ゴブリンの声が、小さくなった。
遼太郎は窓の外を見た。草原の向こうに、小さな村が見える。その先には、深い森。空には、二つの月が浮かんでいた。
見知らぬ世界。見知らぬ土地。見知らぬ宿。
でも、「宿」という言葉には、聞き覚えがある。三年間、遼太郎が人生を捧げてきた場所。
彼は、自分のステータスをもう一度見た。
【宿屋管理者】
偶然だろうか。それとも、必然だろうか。
「ゴブ爺さん」
「はい」
「この宿を、見せてもらえますか」
老ゴブリンは目を丸くした。そして、ゆっくりと微笑んだ。
「喜んで、ご案内いたします」




