お姉様の婚約者がクズだったので、破滅させようと思います
お姉さまは、ずっと私の憧れだった。
あのプラチナブロンドの髪! クリスタルのような瞳!
あぁ、お姉様は今日も美しい。
しかもしかも! 大事なクマのぬいぐるみもクロエにくださった、とっても優しいお姉様!
でも何故か、みんなお姉様の良さをわかってない。
「クロエは本当に可愛いわ。いつか王妃様になれるわよ」
母は私にばかり構ってきた。
「ごめんね、リラ。僕はクロエが好きなんだ」
お姉様の婚約者は皆、そう言って私に擦り寄ってきた。
「お姉様はずーっと1人ね。だから、クロエが一緒にいてあげる!」
あの時の約束を、お姉様は覚えているだろうか?
だからね、お姉様。お姉様に近づく男は、みんなクロエが破滅させてあげる。
そうすれば、クロエたち、ずーっと一緒だもんね!
* *
「ねぇクロエ。僕は君が好きなんだ」
「えっ?」
お姉様の婚約者である第三王子。お姉様がいうに『優しくて誠実』らしいその王子は、クロエの手をそっと握ってきた。
「でも、アーサー様はお姉様の婚約者でしょ?」
「リラは……僕がいなくても大丈夫だから。クロエと違って強い子だし。だけどクロエはちっちゃくて、危なかしくて。だから僕がいてあげないと」
ニヤニヤ笑うその顔に、なんだかとっても腹が立つ。
クロエはその時ふと思った。もしかしてクロエ以外の女の子にも、同じようなことを言っているんじゃないかしら?
「ねえ、アーサー様。クロエもアーサー様が気になります。でもアーサー様、他の女の子とも仲良くしてますよね? クロエ、ちょっとヤキモチ妬いちゃいます」
「えっ……いや、それはさ。ただ遊んでるだけなんだ。僕の本命はクロエだよ」
焦った様子で言い訳するアーサー様。
ふぅん、やっぱり図星なんだ。
「じゃあ、クロエはそれを信じます。だから……アーサー様のこと、クロエにもっと教えてください」
にこりと甘い笑みを浮かべると、アーサー様はでれでれと鼻の下を伸ばす。
正直とっても気持ち悪い。でもこれもお姉様のため。クロエはお姉様のためならば、この程度の吐き気我慢します。
クロエはアーサー様に誘われるまま、彼の部屋へと吸い込まれていった。
* *
「うーん、完全に黒! アウト!」
部屋に入った瞬間から、もうすでに結果は見えていた。女物の香水の匂い、少女趣味な貰い物と思しき小物。
極め付けはアーサー様の部屋から出てきたアクセサリーの数々。王宮内で広まってる噂。どう考えても3人以上は他に親しい女がいる。
クロエは証拠を前にして、自分の部屋でうんうん唸る。
さて、どうしたものだろう。
その時クロエは閃いた。どうせ3人もいるんなら、バトルさせたら楽しいんじゃない?
クロエはにっこり微笑んで、彼女達3人に、それぞれ手紙をしたためた。
* *
「ねぇ、婚約破棄してあたしと結婚してくれるって言ったじゃない!」
「アーサー様……私を、弄んでいらっしゃったのですか……?」
「最初は私と付き合ってたんです! なのに、なんでこんなに増えてるんですかぁ!?」
ぎゃいぎゃいわいわいとうるさい女性達の声。間に挟まれたアーサー様は真っ青になって震えている。
クロエの隣にいるのは、それを見てしくしくと泣いているお姉様。
クロエはその場にしゃがみ込み、そっとお姉様の手を取った。
「あぁ、可哀想なお姉様。こんなにお目目を赤くして。お姉様、ひとりぼっちになっちゃったね」
お姉様はうるんだ瞳を見開いて、クロエの方をじっと見る。キラキラと輝くそれは、まるで宝石のようだった。
「なんで……?」
ポツリと呟くお姉様。
なんで、なんで……かぁ?
「だって、もったいないでしょ?」
あんなクズに、お姉様をあげるなんて勿体無い。あいつに、そんな価値などありはしない。
お姉様はぐっと唇を噛み締めてから、うつむいて一言も発さない。ただただ、静かに泣くばかり。
あぁ、可哀想なお姉様。ひとりぼっちのお姉様。
でも大丈夫、クロエはずーっとそばにいるからね。




