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愛しい人の声で呼ばれる名前は、少し価値があるように思えて。

知り合いからお題を頂き、それにそってショートストーリーを書くっていうもので書かせて頂いた作品です。

楽しんでいただけると幸いです。

名前に意味が込められていないことは分かっていた。

生まれてまもない赤子だった私は教会の裏門前に捨て置かれていた。そして教会に勤める神父に拾われ、聖人の名前を付けられた。

教会には私と同じように聖人の名前が付けられた孤児が何人も住んでいた。

私や他の子たちは聖人の名前で呼ばれることを嫌い、神父やシスターに隠れてお互いの名前を別に付けて呼びあっていた。

捨てられた自分たちを迎えに来てくれる人間はいない。けれど、聖人の名前で呼ばれることを受け入れれば自分が自分でいられなくなる、そんな予感めいたものをみんな抱えていた。

私は他の子達から「B」と呼ばれていた。名前の理由は背の低い順に並んだら前から二番目だったから。

それから私達は大人になり、他の子達と別々の道を歩むことになった。

ある子は元いた教会で神父の後継になり、またある子は勉強のために学生寮に入った。

私は別の、同じ宗派の教会でシスターとなって住み込みで働くことになった。

「あの…〇〇シスター」

〇〇とは、聖人の名前であり私の名前だ。拝礼室の掃除をしていると背後から声を掛けられた。

背後を見ると、緊張した面持ちの若い成人男性が立っていた。

「なんでしょうか?本日のミサは終わりましたよ」

「わかっています。僕は貴方に用があって…」

「はぁ。なんでしょうか?」

「…その、えっと…このあとお暇でしたらお食事でもどうかな…と思って…」

男性は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

これは驚きだ。こんな私に気を持つ人間がいたのか。だが、私は首を横に振った。

「申し訳ありません。お断りします」

「…っ、ではいつならいいですか?」

なんと男性は食い下がってきた。やや訝しむ目を向けてしまう。この調子だと断り続けても男性は必死に食い下がるだろう。どうするべきか悩み、私は妥協案を上げることにした。

「私のあだ名を当てることが出来たら食事にお付き合いしてもいいですよ」

きょとん、とする男性。見る見る顔に喜色が広がり、私の提案を受け入れた。

何回も何回も間違えて、とうとう彼は私が幼少の頃から仲間内で呼ばれている名前を当てた。

それから、彼はそのあだ名で私を呼ぶようになり、食事を何回か共にするようになった。

私の心が彼に傾くのも時間の問題だった。

「ヴィー!」

彼との待ち合わせ場所にいれば、彼が私を見つけ、私の名前を呼んで駆け寄ってくる。

聖人の名前が嫌で、背の低い順で並んだら前から二番目。だから「B」。

彼はその事実を知って、私を「ヴィー」と呼ぶ。

なるほど。こうしてみると、この名前にも多少なりとも価値がついたようだ。

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