わたしの幼少期は本を読みまくる生活だった
知り合いからお題を頂き、それにそってショートストーリーを書くっていうもので書かせて頂いた作品です。
かつて「図書館」と呼ばれていた廃墟で残された本を読み、ゴミを売って生活している人物の話。
ショートショートです。
楽しんでいただけると幸いです。
わたしの世界は本だけが全てだった。
人のいなくなったゴミ捨て場のような廃墟を根城にわたしは生活していた。
元は「図書館」という本を収納する施設だったらしい。
幼い頃の記憶の断片には親と呼べるような大人はいなかった。
覚えていることと言えば、路地裏で同じ年頃の子供たちで固まって生活していたことくらいだろう。
そこらにいる鼠や虫を食べて飢えを凌ぎ、いつしかゴミを売って生計を立てることを覚えた。
その中で、わたしは「図書館」と呼ばれる廃墟に異常なまでの興味を覚えた。
文字の読み方など知りもしないくせに、廃墟に捨て置かれた本を一生懸命に捲っては、一文字ずつ文字を覚えていった。それが丁度わたしが六つの時だっただろうか。
ページを捲り、本の世界にいる間は辛い生活を一時忘れることが出来た。
特にわたしが興味を惹かれたのは植物や動物などの図鑑だった。
後から知ったことだが、わたしが生活していた場所は、大人たちが不要と判断したものを捨てるための大きなゴミ捨て場だったようだ。
そこには壊れかけたアンドロイドや病気の犬や猫、そして孤児たちがいた。
そんな劣悪な環境では「花」を見ることは本当に稀であった。
もちろん、健康で元気に走り回る動物も見たことがなかった。
見てみたい。この図鑑に載っているわたしが見たことないものを、この目で。
いつかこのゴミ捨て場の外に出られたら…そんな淡い期待を抱え、わたしは暇さえあれば図鑑を何回も読んでいた。
だが、ある時気づいてしまった。
「不要なもの」の烙印を押されたわたしに、このゴミ捨て場を出た後、生きる場所はあるのだろうかと。
「はっ…滑稽だな…」
知らないうちに抱えていた希望を、自身で砕いたわたしは、それから虚ろな日々を送っていた。
そう…あの子に会うまで…
「僕に、楽譜の読み方を教えてください」
そう言ってわたしの前に現れた子供は大人用のギターを両手に抱えていた。
この子も「不要なもの」の烙印を押された子だ。
「文字は読める?」
「読めない」
「じゃあ、楽譜の読み方と一緒に文字の読み方や書き方も教えてあげよう」
この廃墟であと何年生きられるか分からない。
けれど、新たに希望を持って生きることくらいは許されてもいいじゃないか、という気が起きてきた。
「誰かにとっての不要なもの」だとしても「誰かにとっての必要なもの」になれるんじゃないか、とね。
わたしは、その子に「詩人」と名乗り、その子に読み方を教える事にした。