「8月1日 きょうはにっきをつけはじめた」
知り合いからお題を頂き、それにそってショートストーリーを書くっていうもので書かせて頂いた作品です。
楽しんでいただけると幸いです。
「8月1日 きょうはにっきをつけはじめた」
そんな書き出しから始まる日記を見つけたのは、祖父の管理する蔵の中であった。
夏休み。親戚の法事で久方ぶりに祖父母の家へ泊まりに来た僕は、祖父に蔵の中か工具箱を取ってくるよう頼まれていた。
弟が祖父に竹で作る水鉄砲を作りたいとせがんだのがきっかけだ。
元々面を作る職人だった祖父はそういう細かい作業が好きで、弟にせがまれるとやる気になったらしく、弟と連れ立って近所の竹林へ水鉄砲に良さげな竹を探しにいった。
そして残された僕は蔵の中で工具箱を探しているという訳だ。
蔵の中に作業棚を見つけ、恐らくこの付近に工具箱があるのだろうと探していた時、和綴じの本が作業棚に立てかけられているのを見つけた。
なんだろう?と開いてみると、誰かが書いた日記だった。祖父の書いた物だろうか?と首を捻って読み進める。日記は一言だけその日あった出来事を綴ったものだった。
8月2日 きょうはさかなをつかまえた
8月3日 きょうはたけをきってみずでっぽうをつくった
このように日付だけ漢字でその他はひらがなで綴られた日記。だが、非常に読みにくい。字は真っ直ぐ書かれていないし、ところどころ変な癖字で読解に時間を要する。
その日記帳は紙が古く色あせ日に焼けてボロボロになっていたので、祖父がひらがなを覚えたての頃に書いた日記なのだろうか?と適当に思っていたのだが、ある一ページになって僕の手はぴたりと止まった。
『さかさまをもとにもどすな』
日付も何も書かれていない、それだけ走り書きしたような乱暴な字のページだった。
「逆さまってなんのことだ?」
そのあとのページは普通に日付とひらがなの一行だけ日記が続いている。
ぱらぱらと捲って「さかさま」のページ以外特筆すべきところのない日記に、僕はますます首を捻った。
逆さまになってるものなんて何かあっただろうか?と蔵の中をくまなく探してみる。
だが、それらしいものは特に見つけられず、諦めて工具箱を探し出し、思ったよりも重量のあるそれを両腕に抱えて蔵を出ようとした。
「うお!?びっくりした!」
何気なく蔵の出入口の鴨居を見上げて僕は後ずさった。
そこには恐ろしい形相の赤い鬼の面が飾られていたのだ。
「あれ?こんなところに鬼のお面なんて飾られてたっけ?」
以前祖父の家に来た時、鬼のお面は別のところに飾られていたような気がするが…。もう何年も前のことなので記憶があやふやだった。
「…まぁいいか。色々いじくってじぃちゃんに怒られたくないし」
僕は出来るだけ出入口の上に飾られている鬼の面を視界にいれないように蔵を出た。
『きづかれた』
『きづかれたがさかさにしなかった』
『くちおしいことよ。このまもりをほどくにはひとのてがひつようなどと』
『しかたあるまい。いましばらくまとう。あのこどもにタネはまいた。またここにくることになるだろう』
『そのときはさかさにするだろうか』
『さかさにするようはたらきかけるさ。われわれのじゆうのためだ』
『いまいましいこのまもりをほどいたら、いえをもやしにいこう。そこをとおりかかったというだけでまもりにとらわれた、われらのいかりをおもいしらせるのだ』
『おなじおにといえどゆるせぬぞ。かならずふくしゅうしてやろう』




