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街では自分は苦しい。そんなことに勘づいてしまった

こちらはわたしが適当に思いついた文章の羅列(題名)にストーリーを付けたらこんな感じかな、という作品になっています。

短編です。楽しんで貰えると幸いです。

 クロエの住んでいた家は、背の高いビルが立ち並ぶ街のはずれ、閑静な住宅街を抜けた先にある鬱蒼とした森の手前にあった。

 元々はクロエの祖父が暮らしていた家で、祖父はその家で小さな洋食屋を営んでいた。

 二人がけのテーブル席が二つ、カウンター席が三つの本当に小さな洋食屋だった。

 クロエの記憶の中ではそこそこ洋食屋は繁盛していたように思う。常連客もいたし、年中無休だったから毎日来るお客さんもいた。

 クロエは祖父の手伝いをして、いずれはこの店を継ぐのだと思っていた。

 けれど、祖父は突然洋食屋を畳んだ。クロエが16歳の頃だった。

 納得できないクロエはもちろん祖父に突っかかった。

 祖父はまだ腰も曲がってないし、包丁さばきも美しく、何より料理の腕は一切衰えていなかったからだ。

 何故と問い詰めるクロエの前で祖父は力無く笑った。

「ごめんな、クロエ。じぃちゃんはそろそろ休みたいんだ」

 そう言って部屋に引き上げる祖父をクロエは許せなかった。

 何度も説得したし、もっとちゃんとした理由が欲しかった。

 けれど、祖父は何も語らずある日心不全で倒れ、そのまま眠るように亡くなった。

 クロエは一人、祖父の残した家に取り残された。

 大人になったクロエは祖父の家を飛び出して、街で仕事をして稼ぐようになった。

 職場の近くに家を借りて生活していた。

 けれど、街で生活すると「苦しく」なって休みの日になると必ず祖父の家に戻ってきた。

 街はクロエにとって息苦しかった。祖父の家はその息苦しさをほんの少し忘れることができた。

 ある日の休みの日、クロエが祖父の家に戻ってくると、店だった玄関口にかつての常連客のハンスさんが立っていた。

「クロエちゃん、久しぶり」

 ハンスさんは力無く笑った。クロエも力無く笑って、立ち話もなんだから…と家の中へ案内した。

 祖父が店を畳んだあとも店だったフロアの内装はそのままだった。休みの日にクロエが掃除しているので汚れた様子もない。空き巣に入られた形跡もなく、クロエは安堵した。

 厨房から濡らした台布巾でカウンターをさっと拭き、ハンスさんにカウンターを勧めた。

 ハンスさんはクロエより六つ年上で、住宅街の小さな薬局で薬剤師として生計を立てている。

 折角だから、とクロエは買ってきた材料でピザトーストを作った。

 ハンスさんと自分の分の材料を切ってトーストにのせ、オーブンで焼いている間にコーヒーを淹れた。

 コーヒーは帰ってきた時に飲むように祖父の家に残していたものだ。

 オーブンでカリカリに焼きあがったピザトーストとコーヒーをハンスさんの前に出す。

 ハンスさんは嬉しそうな顔をして鼻をひくつかせた。

「すごくいい匂い、とてもおいしそうだ」

 ハンスさんがピザトーストに齧り付く。クロエもカウンターに自分の分を置いて、ハンスさんの横に並んで食べた。久しぶりに食べる、祖父のレシピのピザトーストだった。

「ハンスさん、わたし…街で生活してると苦しくなるんです」

 ピザトーストを食べながら、クロエはポツポツと語り出した。

 街にクロエはいるのに、街にいる人々はクロエの前を通り過ぎていく。クロエをおいてけぼりにする。上辺だけの付き合いで、誰もクロエに寄り添ってくれない。それが堪らなく苦しくて寂しく感じる。最近になって、そんなことに勘づいてしまった。

 街で生活するのは苦しい。でも、祖父の家にいるのも寂しくて苦しい。

 どうすればいいか、クロエは悩んでいた。

 ハンスさんは静かに話を聞いて、クロエを見つめて静かに言った。

「…それなら、逃げてみる?街でもない、ここでもない場所に」

 ハンスさんの言葉にクロエは目を丸くした。逃げるなんて考えもしないことだったからだ。

「逃げるって…どこに?」

「クロエちゃんが逃げたいって思った場所に。どこでもいいんだよ。クロエちゃんが苦しくないって思える場所なら、どこだっていいんだ」

 ハンスさんの言葉にクロエは考え込んだ。苦しくない場所、そんな場所本当にあるのだろうか。

「もしよかったら、一緒に旅行してみる?苦しくない場所を探しに」

「ハンスさんと一緒に?」

「うん。僕も、苦しくない場所を探している所なんだ」

 今度はハンスさんが話し出した。

 ハンスさんにとって祖父の洋食屋は苦しくない場所だった。薬局で働いて家で眠る生活はとても苦しくて、でも逃げることは出来なかった。逃げたいと思った時ハンスさんはこの洋食屋で料理を食べることにしていた。洋食屋がなくなってから、ハンスさんは次の逃げる場所を探してあちこち旅行にいくことにしているんだとか。

 静かにその話を聞いたクロエは、コーヒーの黒い湖面を見つめた。

「ハンスさんに恋人がいないなら、ついて行っていいですか?」

「もちろんいいよ。残念ながら、恋人いない歴=年齢なものでね」

 眉尻を下げて笑ったハンスさんにクロエも笑い返した。

 翌週、クロエはハンスさんと苦しくない場所を探して旅行に出かけることになった。

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