博物館での出会いだった
知り合いから一文のお題から想像して続きを書いてくれ、という物で書かせて頂いた作品です。
一文のお題は「博物館での出会いだった」
特別展が開かている歴史博物館に訪れた主人公は、そこで所々欠落ちた展示品の檜扇を見つける。
ショートショートです。
楽しんでいただけると幸いです。
友人に頼み込まれ、その日は国営の博物館へ向かった。
なんでも律令国家の成り立ちについての特別展が開催されているらしく、自分も友人の背を追いかけながらなんとはなしに展示を見つめていく。
あくびを噛み殺しながら展示を眺めていると、一つだけ、視界に訴えかけるものがあった。
古びて、所々欠け落ち、墨で何かが書き綴られた檜扇だ。
展示されている檜扇の隣に何と書いてあるのか解説板が置かれている。
読み取れない箇所があるからか、解説の文字も□の文字で潰されて意味を成さない文章になっている。
その檜扇をじっと見ていると心臓の音がドクドクと強く内側で鳴り響いているのを感じた。
何故こんなにドキドキするのだろう。
何故こんなに惹かれるのだろう。
じっと見つめていると、知らずに口が動いていた。
「たち別れ いなばの山の 峰に生ふる……」
知らないはずなのに。欠け落ちた檜扇の言葉が口を滑るように出てくる。
そうだ。あの人が待っていたのに……。私は……帰ることすら出来なかったのだ……。
知らずに涙をこぼす自分に友人が慌てたように背中をさする。
その展示されていた檜扇はかつて防人となって国の要地を守っていた一人の男が、妻から送られた歌とその返歌を綴ったものであった。