1.異世界無双なんかどうでもいい
「ここは...どこだ?」
目を覚まして体を起こすと、自分の部屋ではなくて草原にいた。
夢だと思い、ほっぺたを捻る。
はやく起きろとじっと待つのだが、一向に起きず、俺の中である可能性が沸き上がってきた。
「もしかして、異世界転移ってやつかこれ。そんなわけないか」
異世界もののアニメを最近見ていたからそんなことを考えてしまう。
自分の部屋じゃなくて草原で目覚めただけで、異世界転移を考えるなんて安直だと思う。
なら、だれか教えてくれ。
どうして太陽が2つあるんだ?猫っぽいのに羽が生えた生物はなんだ?空に飛行機じゃなくてドラゴンっぽいのが飛んでいるぞ?
時間が経てば経つほど、俺の中の可能性は現実に変わってきた。
そんな中、ゴブリンみたいな生き物達が後ろから武器を持って走ってきていた。
「グギャーー!!!」
「ちょ、噓だろ...逃げなきゃ!」
気づいて逃げようとするが、足が動かない。
もしこの世界が現実なら、あのゴブリンも現実だ。俺を獲物だと思っているんだ。
そんな考えと恐怖が、足を動かなくさせていた。
「ギャギャー!!」
「やめ...!...ん?」
武器を振り下ろしてきたゴブリン達に、手で精一杯の防御をする。
だが、痛みを感じない。恐る恐る目を開けると、周りの動き全てがスローになっていた。
(なんかゴブリンも草原の草もスローに見えるぞ...!今のうちに逃げよう!)
恐怖が消え、身体は動けるようになっていた。
で、何を思ったか立ち上がりと同時に俺の身体はパンチを繰り出した。
すると突風が巻き起こり、ゴブリン達は面白いように吹き飛んでいった。驚くような表情をして、武器を置いて逃げていく。
「...もしかして、異世界定番のチート能力あったりしちゃうのか?そんな馬鹿なことないか」
不思議と自分の手から、力が溢れているように感じる。
半信半疑で近くにあった岩を殴ってみた。すると、岩は豆腐のように砕け散った。
「...まじかよ」
チート能力を確かめるため、色々やってみた。
軽くジャンプをしたら、10mほど飛べた。
集中したら、周りの動きがスローになった。
走ると何十倍もの速度で移動出来た。
魔法も使えるんじゃないかと思い、何か出ろと手をかざすとエネルギー波みたいなのがいっぱい出た。
検証した数時間後、俺は高速で森の中を走っていた。
「ハハハハハ!楽しい~~~!!」
俺は確信した。
異世界転移して、最強の肉体と魔力のチート能力を得たのだと。
俺は叫んだ。
「俺は異世界転移して最強チート主人公になったんだ!俺の異世界無双が始まるぜ!」
それから、3年後。
俺はとある王国のギルドにいた。
併設された酒場で酒を飲みながら俺は言う。
「酒うめ~!異世界無双とかどうでもいいわ。酒しか勝たん」