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第一章①




「おい! お前ら、起きろ!!! おい!!!」


 耳慣れない少年の声が耳元で聞こえ、タスクは目を覚ました。その声の主がリーレンであることに気づき、やがて意識もはっきりしてくる。


「村が襲撃に遭った。くそっ、ラヨルだ!」


 リーレンが言った、ラヨルの単語に反応して、タスクは一気に覚醒した。飛び上がるように立ち上がる。タスクより先に目を覚ましたフィルトはすでに古屋の出入口の扉に手をかけていた。


「タスク、いくぞ」


 フィルトが扉を開ける。途端に視界が青い光に包まれた。同時に鼻腔を、様々なものが焦げついた匂いがくすぐる。夜の闇の中で、村一面がノーラによる炎に包まれていた。


「うわあああああああ!!!」


 タスクは狼狽し、駆け出した。熱風が吹き荒れ、皮膚が焼けそうなほどの熱にさらされる。炎の中に人影が見える。ラヨルの民だと瞬時に判断したタスクは、拳を振りかぶり、その人影に飛び掛かっていった。


 タスクの拳は空を切り、ラヨルはすらりと身をかわした。黒い装束を身にまとい、顔をフードで隠している。腕を伸ばし、がら空きとなったタスクの右脇腹に、ラヨルの拳が突き刺さる。


「ぐふっ……」


 タスクの呼吸が一瞬止まるが、それほど強い打撃には感じられなかった。タスクはすぐに体勢を整え、ラヨルを見据えて身構えた。


「早まるなタスク。闘いながら火を消すんだ!」


 フィルトが横に並び、応戦の体勢に入る。


「生き残りがいたか」


 ラヨルのフードの奥の目が、タスクのそれと合った。ノーラの炎に照らされて、思いの外精悍な顔つきが垣間見える。


「その格好、お前も焼暴士とやらだな。このデューザが、即刻、始末してくれる」


 不敵な笑みをこぼし、デューザと名乗ったラヨルが、タスクに接近してきた。瞬時に腕を胸の前で合わせ、防御の姿勢をとる。急所への攻撃を防ぐためだ。


「タスク、そいつはお前に任せたぞ」


 フィルトはそう言うと、タスクに背を向けた。そして、リーレンと共に、燃え盛る炎の前に立つ。


「リーレン! 頼む!」


 フィルトが叫ぶ。リーレンがフィルトの前方に回り込み、指を手刀のかたちに伸ばし、その先をフィルトの左胸に突き立てる。


「一気にいくぞ!」


 リーレンがフィルトの目を見ると、フィルトは「おう!」と全身に力を込めた。


 リーレンの手刀が、ずぶりとフィルトの胸に突き刺さる。裂かれた皮膚から鮮血が噴き出し、フィルトは思わず顔をしかめた。リーレンの腕がそのまま斜めに振り下ろされる。鳩尾を通過し、右脇腹まで皮膚を切り裂き、フィルトの身体から手刀を抜いた。


「浅めに斬ってある。でも、油断して死ぬんじゃないぞ」


 リーレンは、歯を食いしばり、痛みに耐えるフィルトに、そう声をかけた。


「なめんじゃねえ、こんなところでくたばらねえよ」


 フィルトは額に汗を浮かべながら、自分の身体を流れ落ちる鮮血を指で掬い取り、地面を這うように周りで燃え盛っているノーラの炎に、一滴一滴、垂らしていく。そうすると、やがて炎の勢いは弱くなり、さらに血をかけると、煙が燻るだけとなっていった。


「今更火を消したところで、すでにお前たちの仲間は焼け死んだ! 偉そうなババアが最後まで足掻いていたが、この俺様が消し炭にしてやったわ」


 タスクと対峙していたデューザが、フィルトの様子を見て、嘲るように言った。タスクが改めて周りを見渡すと、今迄自分達が休息をとっていた小屋以外の建物は、すでにノーラの炎の犠牲となっているようだった。すでに火が消え、闇の中に煙が漂っている状態となっている場所には、焼暴士の男たちや、村に住む女たちの亡骸が転がっているように見えた。


(嘘……だろ)


 デューザの攻撃をかわし、追撃がなかなかできず、防戦一方のタスク。その視界に時折飛び込んでくる、悲惨な村の状況。知らず知らずのうちに彼の心は絶望感に苛まれはじめていた。


(俺たちが呑気に寝ている間に、村が……みんなが……)


 心の揺らぎは、戦闘にも直結して影響する。タスクの防御がふと緩んだその隙に、デューザの拳が青い炎を纏い、タスクの鳩尾を抉った。


「ぐああっ」


 皮膚が焼け焦げた匂いがして、タスクの鳩尾から煙があがる。皮膚がただれ、痛みが走るが、発火はしないようだった。


「油断するんじゃねえ!」


 リーレンの怒号が耳に届く。彼の術が患部に命中し、ノーラの炎を相殺してくれたのだと気づく。リーレンが錫杖の先を、タスクの方に向けていた。


「しゃらくせえ! ガキ共が、さっさとくたばりやがれ!」


 デューザにとって、リーレンの存在は煩わしい以外の何ものでもなかった。ランロイの中でも、リーレンは幼いながら、非常に優秀な実力をもっている。彼には他のランロイと一線を画している点がある。それはランロイとしての能力だけではなく、戦闘力も並みの焼暴士程度は持ち合わせているということだ。


 リーレンをタスクとフィルトに引き合わせることを決めたのは、誰あろう、コトだった。焼暴士としては、まだまだ経験が浅く、実戦では素人同然の二人にとって、大幅な戦力強化になることを期待してのことだった。さらには同年代のもの同士、互いに研鑽し、一人前に成長してほしいと密かな願いも込められている。

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