ドライブ
ドライブというのをやろうと心に決めていた。
我が家の現在の住人のなかでは俺だけが免許を持っていたために、そうしなければならなかった。というのも、流石に田舎道を一時間も歩いて買い物に行くのは憚られたのだった。
難しい日本語だ。あまり人との会話を好まない俺にとって、使わない日本語の発音は難しい。はばかかられる、と息のつまったような独り言を口のなかで転がしながら軽トラを走らせた。
畦道を走る軽トラは時おり尖った石や、かつて境界を示していた木製の木を踏んで派手に上下に揺れる。薄っぺらの、バッテリー保護材みたいなシートは辛うじて衝撃を和らげたが、頭をしこたま天井にぶつけて俺の頭にたんこぶを作る。
仕方がない。座高が高い人間の欠点である。俺にとってこの乗り物は小さすぎた。
しかし、助手席に相棒がいることは嬉しく思えた。タッカーとデイルよろしく、何かヒーローには相棒が付き物だと思えたから。
俺は外行き用の自分を繕って口を開く。
「全品半額セール実施中だぜ! カニ!タッ!べ!イコー!」
愛くるしいまでの笑顔もセットで話しかけるとダンゴムシは怪訝な顔をして
「農家さんって複数人いるんすか?」
「何言ってるのかな?」
「いつもそんなんじゃないじゃないスか」
「いつもこうだろ」
「違うス」
外行きの自分は、他人に見せたい自分なのかな? 話した後必ず笑顔を浮かべる俺を見て苦い顔をして舌をつき出す彼に共感を覚える。
ダンゴムシが視界から消えた。運転中のため前しか見ることの出来ない俺の首筋を柔らかい何かが触れる。
何のことはない。指だ。春の訪れを知らせる新芽のように柔らかな指筋が、顔の切れ目を探すように何度も撫で付けるのが何とも言えずくすぐったく、ブレーキをかけてしまう。そして、シートベルトに押し付けられた彼からくぐもった非難の声が上がった。
「今、ぼくは物みたいに扱われている気がしたッスからね!」
彼は身体が小さいため、急ブレーキによって頭をダッシュボードにぶつけたらしく、赤くなったおでこをさすっている。言うまでもなく、俺は他人との接触に少々問題があった。
「ご、ごめん」
彼の身体から読み取れる表情は、身体を鎧のようなプロテクターで覆っているため分からなかった。正面を向く。だれもいない田舎道。俺は残念ながら他人の気持ちを理解できない状態で生まれて今まで生きている。
「農家さんにも分かりやすく教えてあげるッスよ」
視界の端から手が延びてきて反射的に避けると、頭の上を通過した彼の手のひらが後ろを見るための小窓に激突して強かな音を立てた。
痛いらしく、しばらく無言のまま悶えていたので構わずに車を発進させると
「……そういうとこ嫌いじゃないッスよぉ」と恨みがましい声で彼は唸った。
「ありがとう」なめるな。俺は相手の感情が良く分からない。つまり、嫌みであってもそのままの意味で受け取るのだった。
やがて、行く末に人が倒れているのが分かって、髪の長さから女性であろうと結論付けた。感染しているか、そうでないか。そこが問題だった。




