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寸胴野菜スープ

 しばらく風邪をひいてグロッキーだった。

 今の子はグロッキーとか使わないかな?何て言うんだこういうの。死んでた?

 体の節々が痛く、味が分からなくなって熱も出た。食欲もなくて一週間で体重が4キロも落ちた。


 失った体力を回復させるべく、大鍋でコトコトと野菜を煮込む。野菜なんて皿の一部、食べる物ではない、何て言っていた自分がこういうものを食べる日が来るなんてな。おかしいな。


 ふと、不思議なことが起こる。

 ヘタを切断してごみ袋に捨てたはずのニンジンの一部が、いつの間にかまな板の上に乗っているのである。

 おかしい。

 皮の向き方向が合っているから今しがた捨てた部分であることは明らかであった。

 怖いのでもう一度捨てる。

 キッチン横の足元に置いた段ボールからジャガイモの大きいのを4つばかり拾い集めて立ち上がるとやっぱり捨てたはずのニンジンが帰ってきていた。


 変だなと思って振り替えると、ダンゴムシ君が後ろに立っていて鼻息荒くこちらを見ていた。


「食べるとこゴミ箱に落ちてたから拾っといたっすよ!」

「落ちたんじゃない。捨てたんだよ!」


 このおばかちゃんは、そういう人だった。食べ物を捨てられない。なぜなら外の世界では食べ物がなくて、つらくて、食べられるものならなんでも食べたと言う。

 怖くて何を食べてきたか聞けなかったのだが、彼にとってニンジンの固いところは食べ物であるらしいので、水道でよく洗って鍋に入れる。


 絶対俺は食べないからなと思うのだが、何分寸胴鍋であるのであっという間に見えなくなった。


 味付けは塩だけだ。カレーやシチューは今の俺には重すぎるだろう。いつまでも若くはない。それに、塩味の美味しさだって分かるようになった。


「はい、味見」


 差し出されたお玉に口をつけたダンゴムシがあまりの熱さに悶絶して床に転がったので構わず跨いで皿を取りに行った。


 我が家はいつの間にこんなに狭くなったのだろうか。鍋の中身はジャガイモとニンジンと玉ねぎとコーンのスープ。肉が手に入らなかったのでキジバトを一羽そのまま入れてみました。匂い消しでにんにくを入れて、味付けは塩だけ。


 お腹に優しいように玉ねぎがトロトロになるまで煮込んで完成だ。


「ダンゴムシ君はさ、なんかやりたいこととかあるの?」

 台所で皿に盛り付けている背中がビクリ、と跳ねた。


「ボクは、ここにいたいっす」

「じゃあまず、風呂には入らんとね」


 彼は、我が家に来てからというもの、ただの一度もちゃんと風呂には入っていなかった。言いにくい。大変に言いにくいのだが、だんだん臭くなっていた。可愛くいえば、くちゃいのである。


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