ネット民をなめるな
う。ほとんど寝れなかった。
枕元の目覚まし時計は朝5時50分を指している。
今日に限っていつも寝ている寝室ではなく、居間で寝たのは、ぎんさんの機嫌が昨日の夜から悪くて全く寝付けなかったからだ。玲子さんの邪魔にならないよう配慮して居間で寝た。ぎんはすごい。気に入らないことがあると一晩中廊下をいったり来たりダッシュする。多分怒っているのだが、何で怒っているのか全然わからん。
で、そのまま朝になった。
ガシャン!と音がして目の前で窓ガラスが粉々に碎け散る。
何だ!?と思っていると、横の窓がまた割られる。今度は金属バットが部屋の中にまで入ってきたので、攻撃されているとわかった。
体にかかった粉々のガラスをふり落として玄関に走ると、素足にガラスが突き刺さる。どうでもいい。早く行動しないと!
奇襲を受けたとき大事なのは、いかに素早く対処するかだ。
奇襲は頭を叩かれたも同然。そのまま抵抗しないと今度は首を切り落とされる。動け!動け!
玄関横の下駄箱に立て掛けてあった筋トレ用のハンマーメイスを抜き出して、自分を鼓舞するように叫んだ。
「うおおおおおお!!!!」
怖いかって? めちゃくちゃ怖い。相手はこちらを殺しに来ている。だから俺もあんたを殺す!という意思表示をこの声によって発した。
本心は逃げたい。だけど逃げれば追われることが分かっている。殺される。怖い。だから相手を殺す!
ドアを蹴り破って外に出ると、黒い格好をした若者数名が我が家の窓を割っているところだった。
まさか出てくると思わなかったのだろう。目が点になっていた。
肩にかついだメイスを相手の頭めがけて降り下ろす!断固とした固い意思で!敵は滅ぼすんだよ!!
相手もバカじゃないから反射的に手を出してきたね。これは防御反応という。人間の無意識に行う動作で、腕を犠牲にしても命は守ろうとするのだ。
だが間違いだった。
重さ8キロの鉄塊を前にしたときには受け止めてはいけない。逃げなければならない。
腕にメイスが当たった瞬間、パキリと花が咲くみたいに弾けた。さらにそれで止まらず、頭までめり込んで止まる。
さらに追撃として左から振り上げるように頭をぶち抜けば、もう敵に攻撃の意思はなかった。それどころか一メートルほど飛んで意識がなくなった。
困ったのは彼の仲間である。
まさか反撃が来るとは思っていなかった。叩けば相手は怯えて逃げるだろうと思っていたのだ。
だが違った。
彼らは間違いを犯した。
「命を失う覚悟は出来てるんだろうなぁ!!」
敵の仲間はあと二人。二人揃って携帯を向けてきた。どうやら動画をとるつもりらしい。だからなんでそうなるのだ!逃げれば良いのに!
こっちとしては逃げてもらった方が手間なくて良いのに、この俺が動画に撮られることを嫌がると思っているらしかった。
ええ? 警察も動いていないのに? 動画になんの効力が?
何もないんすねぇ。もちろん動画のよって命を奪われることもなく、ただ一歩ずつ歩みを進めればそれでいい。彼らはもはや負けている。
「……た、たすけ」
「あのなぁ。俺は、スポーツとかやらんのだわ。だから、武士道とかスポーツマンシップとかわからん。この世界じゃ敵を死ぬまで殴るのが常識なんだよ!」
卑怯とは言わんだろうな。相手は奇襲してきた。しかもバットという名のこん棒を所持して。
スマホをはたき落とす。
目の前で、黒光りするスマホをメイスで叩き潰してやった。
その時の顔といったら無いね!ご飯三倍食べれちゃう!
「あれれ? 大事なスマホ壊れちゃったねぇ? どうするのかなぁ?」
しまった。スマホ持っていれば彼らの表情を動画にとれたな。
「玲子さん、俺のスマホ分かるぅ?こいつらネットにさらすから持ってきて!」
ボッチなめるな。襲撃者よりも確実に多いネットの友達は彼らのような搾取する側が大嫌いだ。
すぐに住所を特定してくれることだろう。ぐふふふふ。楽しくなるぞ!
「名前はなんていうのかな?学校どこ?言っとくが嘘ついてもすぐ分かるから。いままで何人虐めてきた?」
襲撃者は学生服を着ていた。そんなの個人情報の塊じゃないか。スレを立てて特定してもらおう。