人助け
交通事故見ちゃった。
車の正面衝突だった。電気の来てない信号の交差点、軽バンとトラックの衝突は、悲惨、以外の言葉で言い表しようがない。
酷いのは軽バンで、車の顔面の右半分が無くなっていた。元々そこにあったフレームは車体側に押し潰されたのだろう。運転手ごとだった。
普通なら悲しむべき状況であるが、より酷いのは助手席の方で、女が一人乗っていたのだが、何分、命があるのが残酷と言わざるを得ない状況で、まるで、質の悪い拷問にかけられているような有り様だった。
「があああああ!!!」
これが唯一聞き取れる彼女の声である。シートベルトをつけていなかったらしい。身体は車のダッシュボードに強打。腹がどんどん膨れて、ああ、内臓が破裂したんだと分かる状況だった。
逃げなかった心優しいトラックのうんちゃんとなんとか二人で引きずり出したのだが、バカみたいに叫び回るわ、みるみるお腹がふくれていくわで目も当てられない。
残念ながら医者はやっていない。つまりは、俺達に残されている選択肢は、医者の真似事をして手術ゴッコをするか、神様の真似をして人の命を刈り取ることだけだった。
そして俺は、医者の真似事をする方をとった。うちには、変なこと勉強させるわけにはいかないガキがいるんだ。
幸いにも俺には人を切っても痛む心は無い。適任だ。
問題は清潔な手術道具などあるはずもなく、せめてあるのが、お昼ごはんを作るときにちゃんと食器用洗剤で洗った包丁があるだけという状況だった。
これでもこの世界では一番清潔な肉を切る道具だった。
迷っている時間はない。ガキィちゃんを導入して身体を押さえてもらいつつ、腹に包丁を滑らせるという行為が、手術行為というならこの世は地獄だ!よかったな皆!君たちは恵まれている!!
ダメージを受けていたのは肝臓だった。腹の中が血の海だ。その海のなかに内臓がプカプカ浮いている状況。女はまだ意識があった。
腹をえびぞりに、声の限り叫んでいるので、あ、多分死なないなと思うなどする。人は死ぬとき静かになるもんだ。
腹の圧力が下がった今、次の問題は輸血だった。
彼女は大量の血液を失っている。通常ならば出血死してもおかしくない量なのだが、まだ死ねないのである。おそらく、20代くらいのまだ若い個体であるために、生命力が強い。
そんなこと言ってないで輸血!!
我が家に輸血パックなんて無い。どうするか。血と血を混ぜて固まるかを確認して直接チューブで輸血する。
輸血用のチューブには昔、金魚を飼っていたときの泡をブクブクさせていたやつを使うしかなかった。ちょうど良いのがなかったのだ。一人あたり2リットルギリギリ分、輸血して傷を縫合して一晩が過ぎる。
ああ、朝日が綺麗だった。
傷の縫い口なんて、波縫いだからな。家庭科の先生には感謝だな。おいおい人の命救っちまったぜ。
落ち着いて気がついた。
俺の血を輸血した。
あ、感染してる。
真っ赤にした手を確認して、手袋も忘れたことに気がついた。
手術台にしたピアノの前の平机で、ムクリと血塗れの身体が起き上がる。
あ、家にいれちゃった。




