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自衛隊

 我が市にもついに自衛隊のちゃんとしたのが来た。

 ちゃんとした、というのは、偵察部隊ではなく、恐らく、中隊規模での普通科部隊がごっそりと市に来たようだった。


 へへへ。私、自衛隊大好き。彼らは普段武器を持っているし、怖いイメージがあるが、入隊時に日本と日本国民に命を捧げる宣誓を行っている人たちなのだ。自分の命と人生を費やしてこの日本のために働いている。歓迎しないはずがない。警察よりもよほど信頼できる相手だった。


 唯一気になったのは、自衛隊がそれだけの人数でもって市中に繰り出して来た意味だ。この市はそもそも人口が少ない。下水すら未だにない辺鄙なところにある。関東ではあるが戦略上の要所ではない。


 そこに来るというのが変だった。

 普通、安全な城から兵士は出てこない。回りを取り囲まれた包囲戦では籠城が鉄則である。

 それが出てきたということは……。


 俺だってバカじゃない。自衛官を運ぶトラックの幌に真新しい切れ目や、何かしらの体液がその車体から漏れていれば想像する。


 おそらく、自衛隊は避難者を受け入れた。その中には感染者がいて感染爆発。ああ、なんと。無惨なことだろうか。自衛隊は民間人への発泡許可が中々でない。


 あんまり、惨いことだなという顔をして、家の回りを歩いていたら、ばったりと遭遇した。生け垣の影から戦闘服に身を包んだ自衛官さんが顔を出して、「お疲れさまです!」。顔には笑顔があったが、頬は痩せ、まるで月から来たみたいだった。


 迷彩の戦闘服は汗に濡れて真っ黒になり、サスペンダーにつられた弾帯は歪むほど弾薬を携帯していた。銃のメンテナンスは病的に行っているようで、銀色に輝くハンドガードが銃身に組み込まれていた。

 彼らの使う銃を89式小銃という。弾は直径5.56mmのフルメタル・ジャケットで、ホウワによって開発、設計された銃であるが、重心の位置が左手近くにあり、銃そのものの重さよりも持ったときに重く感じてしまう欠点がある銃だ。長年使われ続けた部品類は痩せ細り、黒テープを巻いて脱落しないようにしながら使っている。なかなか物持ちのいい日本人らしい銃だ。

 なぜここまで詳しいかと言えば、かつてサバゲーでこの銃を使っていた。

 すでに設計的に古く、最新機種への置き換えが始まる矢先でのこの感染となってそのまま持ってこられたらしい。その銃は、離れていても鉄と機械油の匂いがするようだった。



聞けば展開中の部隊、とのことだった。作戦内容については民間人には話せないだろうから無理に聞こうとはしない。

「なにか必要な物はありますか?」

「出きれば水をいただきたく」

「分かりました。野菜の在庫もありますので炊き出しもできますがどうしましょうか?」

 男はおっ、という顔をして

「正直、ありがたい」


 自衛隊さんも、長く戦っているので用意が良かった。でかい丸鍋がトラックから出てきて、直接そこに庭のホースから水をいれ、燃料は家前の竹藪の剪定で出た枯れ枝を使って焚き火にした。

 乾いた骨のようになった竹は熱せられることで節が膨張して時折ポンポンと音を立てている。

 沸騰したお湯には米を豪快にぶちこんで、ナスもピーマンも玉ねぎもジャガイモもみんなぶつ切りにして入れて雑炊にするようであった。言ってくれればカレー粉であるとか、シチューの粉であるとかあったのに、というと、しばらく食べてないのでこれでいいですとのこと。


 お粥のような状態で炊きあがる頃には、ぞろぞろと自衛官さん達が集まってきて、顔のフェイスペイントもあいまって、まるで土人形のような集団がそこにはあった。数日間、なにも食べていない。匙を持つ手は震え、口に運ぶもほとんど喉を通らないような状況である。


 カキの木の木陰に縁台を出してござを引き、休めるように整えると、最初に重傷者が横たえられた。

 頭に巻かれた包帯には血が滲んで真っ赤に染まっていて、カサカサと干からびた唇には生気が感じられなかった。言い方は悪いが、棺の中のご遺体を覗き込んだような、有り様であった。


 部隊への補給がうまく行っていないのである。もしくは、補給を待っていられないほど状況は切迫し、彼らは先を急いでいる。そこまでする作戦とはいったい何なのだろうか。


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