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化物の住みか

 日本にある、ワクチンを作れそうでかつ、我が家から行けそうな距離にある施設は新宿にあった。

 そう。都会である。人が沢山いる。つまりは、感染者も沢山いる。なんでそんなところに作ったのだ? そこに行くためには準備をしなくちゃいけなかった。


 食料、武器はもちろんのこと、何よりも大切だったのは情報である。


 ゲーム機で遊ぶ可愛らしい少女を想像してみる。

 コントローラーを握って、そのコードがハードに繋がっている。しかし、いつの間にかそのコントローラーが生き物の内臓にかわり、白かった手は真っ赤に血に染まる。

 その骨張ったほほに、不気味な笑みを浮かべて「なにか変なことしたかしら?」と、手に持った肉、ついさっきまでハクビシンだったそれをムシャムシャと食べる様を誰が想像できたというのだ。


 この年齢の子供が、親から供給される血だけで生きられないことはちょっと考えれば誰でも分かることだったのだが、俺は全く気がつかずに家にあげた。

 彼女はどうやって生きているのか。彼女は、残虐きわまりない食事をする自分を俯瞰して見ることで、自分とは違う誰かという存在を作り上げた。だから、いつもの彼女に戻ると何をやっていたか覚えていない。


「今、何を持っているのかな?」

 優しく問いかけるように、彼女の目を覗き込むと、一瞬穢らわしい物を振り払うようにして内臓を床に叩きつける。

 彼女はくすんだシャツの上にブカブカの作業服を着ていて鼻を突く生臭さがいつも薫った。


 ガキィは、俺が用意した冷凍のスパゲッティーを啜った。

 自分の矮小な攻撃性など見せている暇もない。良い大人のふりをするしかなかった。

 彼女の人間らしい姿を見たのは、この、ケチャップで口のまわりをベタベタにしていたのが最後だった。


 彼女の見せた人間性が、わずかに残った大人に気に入られようとする理性が、まだまだ輝きを失っていない宝石の原石が、くすんでいく姿を見ずに済んだのは本当に良かった。


「人のふりしなくて良いんだ」


 ガキィは、目を真ん丸にしてそういうことを言う子供だった。俺が、とってきた若い牡鹿を家の裏の井戸端で解体しているときも、臓物を裏返して洗っているときもそこに来た。


 ただ、治療法を見つけるための重要なピースとして届けるつもりだった。一週間もしないうちに準備は整って行くはずだった。


 ある程度準備が整ってついに家を出ようと彼女を呼びに行った。


「ガキィいる?」


 満々の笑みで二階のドアを開け、うきうき気分で迎えに行った。1人の方が気楽である。

 部屋中の闇という闇が、一斉に這い出てきて、昼間なのに暗くなったと錯覚した。カサカサとゴキブリが無数に這い回るような足音で、そこには四つん這いで歩く化物がいた。


 人でない。見られた、と思ったガキイは押し入れのなかに閉じ籠った。やめてくれ!そこには一着しかないスーツがある!!!

 俺は体が発達しているため汎用品のスーツが着れず、その一着はオーダーメイドの数十万円するとても高級なものであった。


 閉じ籠る子供に引戸を無理やり開けたりなどしない。引戸を持ち上げてそっくりそのままレールから外すと雪崩が起きた。

 それ、は雑嚢のようなゴワゴワした生地を身に纏い、身体中に蛇やらカエルなどの白骨を大事そうにのせていた。顔には蛇の脱け殻を大事そうに貼り付けて、ふすまの支えを失って、こちらに、音もなく倒れてきた。


 ショックだった。子供が大事な宝物を隠す場所が偶々、我が家の押し入れであったのだった。


 外に押し出した。

 ビャービャー泣くので仕方なく家にいれると妙にケタケタと笑って食事では肉ばかりを食べるようだった。


「だめ。野菜も食べなさい」


 彼女は内臓が好きらしい。いつまで動物で我慢できるかな?


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