車でゴー!
俺にとって人殺しとは、生きている実感だった。
極度に共感性が低いゆえに、相手が何を考えているか理解できず、単純な電気信号として理解できる痛みを言語にした会話を好んだ。
できるならば彼ら皆を理解したかった。出来ることならば俺のことも理解して欲しかった。
それが俺の物資を集める理由だった。ショッピングモールやフードコートには、沢山の生存者がまるで疑似餌を飲み込んだブラックバスみたいに押し寄せていた。
当然その中には、物資を手に入れられる人と、手に入れられない人があって、有り体に言えば弱肉強食の奪い合いが発生していた。暴力だ。
戦いの中で二人の生存者によって別々の方向に引っ張られた菓子は、袋が爆発したみたいに中身をぶちまけた。
ここでは、金よりも腕っぷしが物を言う。
こういうの大好きだ。誰が正しくて誰が悪いというのもない。飯を取られた弱い生存者が、奪った相手の太ももにハサミを突き立て捻る。
獣のような絶叫と共に男が倒れ、首を踏まれて絶命した。
足の怪我は、例え、適切な応急処置をしたとしても元のようには歩けなかっただろう。
これで良かったのだ。むしろ、武士の情けで、醜態をさらして生きる恥を防がれたとも考えられる。
俺はもうニコニコだった。ここに生きる世界があると思った。
玲子さんにひかれながら、ドラッグストアに入ったところ、他の生存者は逃げていった。
え。
嫌なので追いかけるとその分だけ距離を取られた。
まるで、俺が未知の感染症にかかっているみたいな仕打ちだった。
「ちょっと待ってください!!まって!!まって!!物資取りに来ただけだから!!」
先程みたいな素晴らしい語り合いを是非に!!と所望しているのに全く相手にされない。
店内を3周も追いかけて、終いにはお菓子の袋を投げつけられた。
「菓子はあげただろう!!近づくなよ!!」
なんだぁ? 差別かぁ?
俺は人一倍こういうのが嫌いだった。
店舗を後にすると露骨に安堵する生存者たち、それを見てニコニコの俺は車のエンジンをかけた。
アクセルを踏み込む。
加速。時速60キロ。車の鼻っ面が触れるや否や、店のガラスがCGみたいに砕け散って、中にいた生存者を車で片っ端からはねていった。