物資調達
窓から外を見ると、あちこちから暗い煙が上がっていて、時々悲鳴が聞こえる。人の少ない田舎町では、あまり聞かない人の叫び声。心なしか煤けたように思える空気は肉を焼いたような匂いがした。きっとこれが、人が焼ける臭いなのだろう。警察が来てくれない。皆感染しちゃったみたいだ。
いやいや、何考えてるんだ。もっとするべきことがあるでしょうに。例えば、今後手に入りにくくなる物を手にいれるとか……。
家にあるものでなんとか武器を作る。
用意したのは砂糖一袋と、水道管と厚さ2.3のss400と使い捨てライターとロケット花火とジグソーだった。これでロケランを作った。
詳しい作り方を書きたかったが、(むしろそこが一番面白いまである。)御時世的に割愛するが、そんなゴミみたいなものでも一応は形になった。
そして、必要そうなものを夜のうちに試射を済ませておきたかったので、暗い運動場に移動して安全装置を解除した。
鉄板を曲げて穴を開けただけのアイアンサイトで狙いを定め、照星と照門を合わせる。
引き金を引くと、カチリ、と板バネが弾ける音がして撃鉄が落ちた。
バシュっと一瞬の閃光。発車筒からまるでドラゴンのブレスみたいに火炎が延びる。
フラフラと千鳥足の酔っ払いのように進んだ弾頭は一瞬ちかっと光って野球のホームベースに直撃した。
鉄が捲れ上がり、真っ赤に焼けて叫び声をあげながらひしゃげていた。十分に威力を確認できたので車に戻る。
音をたてたので急いで逃げなくちゃいけない。
だがおかしいのである。誰もいない。
いくら田舎と言えども、軽トラの1台でも走っていないのはおかしいじゃないか。
ギャー-っと急ブレーキをかけた。
家の軒先にモーターボートがあった。牽引車に乗っていて、その先には黒の外車が止まっていて運転席側の扉が開いている。バックバック!すぐ行け!
コンクリの地面にはボールが転がっていて、どうやら子供がいるらしいが、人がどこにも見当たらなかった。
ちらっと運転席を見ると、血まみれだった。
推理するに、子供が感染して親が安全なところまで連れていこうとして噛まれたのだ。
車の中血だらけ。トマトを投げつけるお祭りの後みたいに血の海だった。持ち主はなし。エンジンかけっぱなし。そりゃそうだ。運転手もその子供もゾンビになったのだ。
もちろん歩いてまで食べに行ったのは冷凍食品じゃない。血の滴るような新鮮な人肉が食べたいのだ。