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良くない先生

「それ、何? いいなー、それ。私も欲しいなぁ」

「……あげんぞ。前もあげたじゃろがい」

 そう、彼女には既にナイフをあげているのだった。

 ドロップポイント、俺が使った先が反り返るクリップポイントに対して、ドロップポイントは下に垂れている。

 ドロップポイントはとても人気のある形で、使いやすく、怪我もしにくい。入門するならドロップポイントからがおすすめである。

 

 気持ちは分からんでもない。映画やアニメや漫画で出てくるナイフとおんなじの欲しくなるよね。服やバックが欲しくなるのとおんなじように彼女はナイフが欲しいのだ。正に教育失敗と言えた。


 なぜこんなにも教育は難しいのだろう。まるで、飴細工でできた人形を、形が崩れないように慎重にコネ上げるような、手に余る感じがする。

 ともすれば、指の間からこぼれ落ちていきそうな将来性は、俺の影響を強く受けているようだった。


 身近な手本となる教師が俺しかいないからだ。やはり、早急にもっとましな教師が必要だろう。


 元来、俺は教師というものに苦手意識があって、そもそも誰一人として人を導くことができるほど習熟するには脳みそのキャパシティが全く足りないというのに、彼らは自ら進んで教師という道を志し、なかには、教え子にまで手を出すやからというのもいるのが全く納得できなかった。それだけならばまだいい。人間は権力を手にすると途端に、暴力的で粗暴で、どうしようもない大人となるのだった。だから先生はよく選ばないといけない。


 言うことを聞かせるのは気持ちが良いだろう。お給料もそれなりにもらえて、合コンで先生をやっている、何て言った日には、ちやほやとされる、そのような人間に誰が預けられるというのだろうか。実際皆も経験あるんじゃないか?学校の授業がまったく楽しくない。授業で何を言っているのか理解できない。教え方が悪いからだ。何のために勉強するのか先生がわかっていないからだ。


 そんな先生に任せていられるか。

 やっぱり、俺から心を入れ換えて頑張って教育するしかないな。


 うんそうだ。まだ尊敬できる大人になれるかもしれない。


 まずは血みどろの手を洗うのだが、いかんせん、人間の血油というのは、水を弾くほど油っぽく、爪の間に入り込んでしまった赤が、不格好なマニキュアみたいに俺を責めるのが悲しくて悲しくて。


 洗い終わった手を嗅ぐと、魚コーナーみたいな生臭さが残って顔をしかめた。


 俺はまだ不出来らしい。

 そりゃ、いきなり親をやれって言われても困るものだ。しかし、変なものを見せてしまったせいで、足にしがみつかれ、ナイフを隠している太ももの辺りを探られているし、散々だ。


 本当はナイフも洗いたい。血は錆びるからだ。革巻きのハンドルも変えたい。

 でも周りの目があるからな。昔は刃物なんてありふれていて、それこそ畑仕事ではなくてはならない存在だったのに、やれ犯罪がどうのだとテレビで騒ぐものだから、悪者になってしまった。

 俺もそうだろう。

 被害者から見れば俺は、悪者だ。

 良い教師になる前にいい大人にならなくてはな。

 覚悟して子供を持つことを決めた大人はうらやましくもあり、恨めしくもあった。

 誰だって、自分が子供と変わらないことくらい分かっているだろうに。

 まず、まず一歩だ。それから始まるのだ。

 水を上げておけば勝手に育つ野菜とは違うのだから。


 うー。やることが多い。

 まずは横になっているダンゴムシに水を飲ませることからだ。


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