死に神
手榴弾をくださいってお願いしたら悲しい顔をされた。
俺はサバゲー歴10年。当然、手榴弾の構造も分かっているし、使い方も分かるし、なんなら作れるのだが、そういう顔をされたのが理解できなかった。
なぜ、この状況で戦えそうな人員を放っておくのか? RPGのパーティだって魔法使いに仕事させないなんてあり得ないだろって思ったけど、壁についた傷を見て理解した。
とりきれてない血液、肉片。子供物のスニーカー、結婚指輪をはめたままの薬指。
なるほど。俺達が来る前には生き残りはもう少しいたらしい。
手榴弾で自殺したのだ。あるいは、感染して皆を守るために自ら選んだのかもしれない。
さぞ苦しんだことだろう。
意外にも手榴弾で即死するには体のバイタルパートの近くで爆発させなくちゃいけない。だが、本能は死にたくないと感じて体から離して起爆してしまう。その証拠に指が転がってる。つまり、彼らは握った状態で起爆した。
指は大人のものだ。子供はさぞ苦しんだだろう。人間は脆い。が、簡単に死ねない。
指輪を回収したが、イニシャルなど入っていなかったので個人の判別は不可だ。
だから、ドックタグを身に付けろと。わずか2000円のドックタグをけちったために、誰だか判別できなくなる。まあ、バラバラになったら人一人分を分けることも至難なのだが。
自衛隊からは武器の供与は受けられないらしい。さらには、逃げる場所が分からなくてあっちにふらふら、こっちにふらふらと千鳥足だ。
基地は意図的に分かりにくくデザインされている。看板など無い。例えば、敵対組織が乗り込んできたときに司令部の場所が分かったら不味いからだ。
自衛隊員さん達とは逆に行けば何となく助かるような気がして、ガキィちゃんの手を引き、階段下で蹲っていたダンゴムシを回収して歩く。
こういう時に大事なのは走らないことだ。そして、大勢がいるところに行かないことだ。パニックになった人がパニックを呼び、転び、骨折し、命を落とす。頼むから俺達に関係ないところでやってくれ。
地獄だ。風に乗って何かが燃えるような匂いがする。
「4班と3班は右に展開!1班と2班は俺に続けー!」
腰だめに銃を構えて乱射。
おお怖い。
さらに道の奥ではチカッと、ヘッドランプが灯って、高機動車が飛び出してきた。
高機動車とは、国産の大型自動車の自衛隊モデルで、横幅もでかいジープのような形をしている。その鼻っ面には大きな丸太のような物が付いていた。信管を取り外された155ミリ榴弾砲の砲弾が番線でくくりつけてあったのだ。
一瞬運転手と目があった。
155mmの爆発力を考えるとまず助からないのだが、不思議なことに自衛隊員さんは落ち着いていた。そればかりかわずかに笑ったように見えた。
誰かに命を託す、ということ。自分の出きる最大限の事をすること。そんな気持ちが伝わってくる。やめて、と思わず口にしたがとても言葉は届かない。
踏まれたアクセルに答えて高機動車は感染者の群に突っ込んだ。
一瞬の光。
二人の頭を押し付けてコンクリ地面に突っ伏す。
色は黒だった。真っ黒な煙。拳大の石が天高く舞い上がって、ボトボトと落ちてきたかと思うと、それは人の手であり、足であり、顔であり、心臓であり、肝臓であった。
人の原型を留めない一撃だった。
100人規模で屠ったのではないかと思われる。残念ながら沈黙した車両はほぼ後部しか残っておらず、惰性でひっくり返りながら激しく建屋の壁に打ち付けられて止まっている。
すぐにガソリンに出火した。
それを見ていた同僚達は頭を抱えた。
一時しのぎではあるが、入ってきた感染者を一掃した中であったのに、全くの笑顔もない。
誰もが死んだ、と思った。
運転席が丸々無くなったような状況だったのに、その燃え広がった車内から、ムクリと人影が起き上がった。
「消火器持ってこい!」
「おい!タンカ!!」
蜂の巣をつついたような騒ぎになってドライバーの救出が行われたが、誰もが自分の目を疑った。
それはまるで、死に神のようだったと、後から話されることとなる。彼のあだ名はこういうわけで『死に神』になった。




