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この不条理で残酷な世界で

 門に向かうと、ちょうど二人乗り越えてきたところだった。


 躍りを踊るみたいな格好で、どこか非日常であるが、見慣れたような光景でもあった。そう、まるで、酔っぱらいが駅前の夜道を歩いているような、そんな光景である。


 片腕がない。臓物を引きずって歩いているが、人間らしい姿をまだ残していた。

 それを見ている自衛隊員さんも唖然として見守っているような感じだった。


 瞬間、ドドドンと地響きがして、赤い曳光弾が尾を引きながら飛んできた。まるで赤い針のようだった。あまりにも速いので人間の目にはそう見えるのだが、実際は12.7mm径の弾丸だったであろうそれは、感染者の頭蓋骨に食い込んで、一瞬のうちに風船を膨らますようにして頭を破裂させる。


 ものすごい光景だった。白いものは頭蓋骨だと思うのだが、その回りにはヘドロとかした肉の破片が糸を引くように飛散して空気に溶け込んでいるようだった。


 その血飛沫の中を飛んできた次の弾丸の回りだけが晴れ、ボツボツと不気味なチーズのようになって二人は沈黙した。


 さすが自衛隊だ。

 だから生き残ってきたのだ。


 俺達は高台から情報を集めるためにマンションみたいな建物へと走った。

 階段には既に土嚢が積み上げられていて二階付近までしか上れない。土嚢の向こうでは自衛隊員さんがメガホンを持っていて「こちらは通行止めです!」とのこと。


 ううう。結構冷たい口調だ。彼らがそのような態度をとるのは恐れているからだと思った。顔に表情はなく疲弊して、恐れ、震えている。何を?


 振り返れば、門が蠢いていた。


 一人二人がその隙間から這い出てきて敷地内をはい回り始めたが、先程の射撃を見た後であったので、なんだあの程度か、問題ないだろうという楽観視ができた。


 前をみて、土嚢の隙間がないか、あるいは、別の建物が空いていないかを見回すと、ちょうど、民間人が門の方に向かって走っているのが見えた。


 門の近くの駐車場には車が止めてあって、感染者が入ってくる前に車を移動させるつもりらしい。

 彼らは目的の車に乗る前に立ち尽くす。


 一言も発せず、また身動きひとつ取れないでいる。車にかけよったのは4から5人ほどのグループであった。それらが横一列に並んでいる様はなんだか変な感じだった。


 彼らが見つめる先には、感染者の群れが迫っていた。


 群れは、一台の車を押し始めた。個体として意思を持ってやっているのではなく、後ろからやってくるやつらに押されて前のめりに車を押し出しているようだった。


 派手に横転した軽自動車の窓ガラスが割れて、乗っていたとおぼしき子供の悲鳴が聞こえてきた。割れた窓からヌイグルミが飛び出るが、それすらも感染者の赤い足が踏み潰して、綿が飛び出る。


 死が来た。


 歩きながら、尿を漏らす姿は不気味だった。大の大人が、そのようなことをしているのだった。


 見とれていた民間人は、恐怖で腰が抜けてしまっている人までいる。中には蹲って呪詛のようなものを口ずさむ人まで。


 感染者は差別なく、彼らを包み込むようにして首筋に噛みついた。


「痛ぁああい!」

「おかぁさん!」

「死にたくないよー!ほんとに私の腕食べてるー!」


 自衛隊は銃を使えないでいた。そこに民間人が来てしまったからだ。わずか数人が車を惜しんで駆けつけたために、せっかくの機関銃が火を吹けない。


 この状況に陥って、スピーカーからは射撃を禁ずると放送があった。


 駐車場では現在進行形で、癖毛でモジャモジャ頭のオバンが「男なら前行きなさいよ!」と痩せっぽちの男を付き出して、そのまま感染者に噛みつかせたり、あるいは、自分の子供を踏み台にして少しでも高いところに行こうとするような地獄絵図が繰り広げられている。


 たまらなかった。これぞ本当の人間の姿と言えよう。


 皆騙されるな。こういう人間と一緒に生活しているんだからな。災害があったらATMだろうが、レジだろうがぶっ壊して金を盗むようなやつらだ。避難所でレイプしたり、ありもしない嘘をでっち上げる人もいる。


 普段、それをしないのは周りの目を気にしているからで、やつらは、化物だ。


 よほど感染者の方がましだとすら思う。


「ガキィちゃん良くみておきなさい。アレが人の本当の姿だよ」

「……」


 だがまあ、生きねばならないな。

 ところで他に民間人はどこにいるのだろうか?

 できれば彼らとは距離をとりたいし、自衛隊員さんの中にも限界そうな人もいて外に出ようとし、上官に殴られているので、はやくどこかに行きたかった。


 誰かが空気に毒を撒いたみたいに、急に息苦しく、なんで世界ってこうなんだろう、と思う。


 数分後、射撃が開始された。


 悲鳴。人殺し!という怒号が民間人とおぼしき男から上がる。誰かが泥を被らないと皆が死ぬところだったんだぞ。それをまあ、そのような口調でいうものだから自衛隊員さんの苦労がうかがい知れた。あのような連中は文句をいいながら平気なふりをして炊き出しを食べるのだろう。どういう神経しているんだ?てめぇが一人で死ね。


 勇敢な自衛隊員さんが牢屋に入れられないといいのだが。この世界は不条理で埋め尽くされている。守るべきものと切り捨てるべきものを間違えてはならんだろう。物資だって限度がある。バカを生かしておいてなんとなるのだろうか。ああいうのが死んだほうが、世のため国のため、そして全員のためになるのに。


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