その権利がある
次はどうしようか考えていたら、女の子が行きなり飛び付いてきて、腰の辺りにガッチリと抱きついてきた。
「逃げて!!早く逃げて!!」
おお!!友達を助けようとしている!
もう一人が走る走る!
ええ!? この子自分を犠牲に!?めっちゃいいやつ……気に入った!
とりあえず邪魔なので膝げりを入れて、彼女が腹を押さえて悶えている間に、脇目もふらず逃げた方の女に拾った石を投げて牽制する。
牽制のつもりが、こぶし大の石が後頭部の右上の方に当たって女はこけた。
それっきり動かなくなったので、竹藪にナイナイする。
彼女の逃げられた距離は30メートルほどだった。まだうちの敷地内だったし、仲間をおいてなんの迷いもなく、真っ先に逃げる時点で、たかが知れてるのである。こういう状況だと人間の根っこの部分が見えますなぁ!仲間捨ててっちゃったよ!三途の川を渡って向こうに♪
それに比べて抱きついてきた方は良かった!力もなく、喧嘩もしたことがなかったのだろう。震えた手足で懸命に抱きついて俺を止めようとしていた。
仲間をおいて逃げたどうしようもない女のために俺に立ち向かったのだ。身長は50センチ近く俺の方が高いし、体重については倍くらいある。立ち向かうって相当な勇気である。君にそれができるか? 俺はちょっとできないかもしれない。
だから欲しい!! 俺にないものをこいつは持っていた!素晴らしい能力である。
人間、口ばっかりのやつが多い。そのくせ、その瞬間になったとき、本当に怖くなってしまって動けない。
だから、誰かのために立ち向かった彼女は、敵だが称賛に値するのだった。
「よし!君は俺のアーモンドチョコを食べる権利がある!さあ!食え!」
ポケットから取り出した梱包を剥いて肩をつかんだ彼女の口元に押し付ける。
「やだー!!!」
泣きながら嫌々と頭を振られたので、甘いものが嫌いらしいなと思った。
いやーでも、あの状況で立ち向かうってさ、すげーわけよ。今の若者の中にも死んじゃいけないやつもいるんだ。知らなかった。
俺もそういう仲間思いでありたい!
まるでお話の中の勇者じゃないか。
ちょっとパワーと体重が足りていないだけで、育ったらスゲーんじゃねえの?
期待してなかったガチャンポンを割ったら中から大当たりが出てきた感じ。
はいはい寒いから家に入りましょうね。
「やだー!!殺されるー!食べられるー!!助けてー!!」
彼女は玄関にしがみついて必死に抵抗した。
「うるさいですよ。まあ、飯でも食べてきなさい」
「やだぁああああ!!!!」
こういう人と知り合っといて損はないよ。しかも絶対彼女はあの死んだやつらと一緒にいて楽しかったわけない。俺には分かる。
彼女は生まれついてのお人好しなのだ。
だが、残念。この世界じゃ生き残れない。希少種の中の希少種。レッドノーティスレベルのやばいやつ。なぜならみんなのためにこの人たちは最初に死んでいくから。
「助ける相手と戦う相手は選んだ方がいいですよ。死んじゃいますからね」




