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時には勉強を

 例えゾンビが世界に溢れようと、そのせいで暴力が共通言語としてまかり通るようになろうと、大人がやらなくちゃいけないことがある。

 

 子供への食事の提供と、勉強の機会を与えること。

 食事は言わずもがな、勉強はこれから先、5年10年と生活する上で人格を形成し、その後の人生を決定付ける行為であると言っても過言ではない。


 かつて見つかったという、狼に育てられた少女がついに言葉を話すことがなかったというように(実際にはそれ自体がでっち上げという話しもあるが)幼い頃の記憶や経験は確実に引き継がれる。使わない筋肉が萎縮するように、脳ミソも小さくなる。


 おそらく脳の記憶を司る領域に繰り返し刺激を与えることが思考能力への活性化を助ける鍵なのだ。


 俺が言っている教育とは何も漢字を書けるように、とか、計算が出きるように、とかではない。先ずもって知るべきなのは、この社会ではなくても生きていけると言うことだ。


 今はチャンスだ。日頃農作業ばかりやっている俺が、子供に時間を提供できる絶好のチャンス。テレビもスマホもネットも無いからこそ感じて貰えるものがあるのではないか。


 やり方は簡単である。

 まず裸足になる。そして、落ち葉の上を歩く。


 怪我をするかもしれない。落ち葉の下には割れたガラスがあるかもしれないし、石ころや虫もいるかもしれない。いや、いる。


 だから人間は靴下を履き靴を履く。


 だから危険を感じる感性が鈍っていっているような気がするのだった。危ないものを踏んでも大丈夫、という経験が、拡大解釈され人を攻撃しても大丈夫となっていくのだった。その先には俺みたいな人間に喧嘩を吹っ掛けて一生残る傷を負うことになる。人生とは傷を受け入れること。そういう風に生きなくても良いじゃないか。


 今日の勉強は裸足で歩いてみる。だ。


 まず自分がやって見せる。ガキィちゃんは体が小さく、さらに四つん這いであるので、とても、とても小さく見えるが、一応は靴も履いているので、まだ、外を裸足で歩いたことはない感じ。


 まずは俺が一歩だ。靴を脱ぎ、靴下も脱ぎ、足をゆっくりだして爪先から落ち葉に触れる。

 乾いていてカサカサと音がする。

 日溜まりに暖められて、猫の背中みたいにあたたかい。危険がないことを確認してからゆっくりと体重をかける。これを繰り返す。


「さあ、来て良いよ」


 なかなか勇気がいる。大事なのは自然の中には危険よりも優しいものの方が多いと知って貰う事だ。そして人間がいかに危険な歩き方をしているかを知って貰いたい。


 今勉強している歩き方を狐歩きという。ちょうど動物と同じように、同じ体重移動で世界を感じる勉強だ。


 だのに、ガキィちゃんときたら、数歩でなれて、木枯らしが落ち葉を巻き上げるように走り抜けて行った。


追い抜かした後で来ないの?と振り返って待っている。俺のことを真似しているのだ。


「よし!負けないぞ!」


 面白いことに、別に勝敗で何が決まるわけではないが、熱中した。昔、小学生の頃、鬼ごっこが好きだったのを思い出した。


遠くで、休憩時間らしい自衛隊員さん達が体育館の階段に腰かけてジーッとこちらを見ていた。もしかしたら仲間になりたいのかもしれない。


 あえて難しいコースとして幹の間を通るようにしたら、バカみたいにガキィちゃんがはしゃいで二回も三回も回っていたので、もしかしたらその笑い声にひかれたのかもしれない。


 30分もすると、無言で自衛隊員さんがついてくるようになった。ちょっと怖いので待って理由を聞く事にする。


「なんでしょうか?」

「ああ、すまない。楽しそうだと思って」

「勉強中です。彼女はちょっと特別で……」


 見れば分かると思うが二足歩行を好まない。そればかりか、木に上って幹に隠れながら目だけをこっちに向けて観察している。人というよりも猿っぽい。顔は可愛いだけに余計に、異質に見える。


 我が家の柿の木のカキが落ちてこなかった理由はあれが食べていたからだ。さらには、カキを狙ってやってきたカラスまで補食していた。

 宝物箱から見つかったカラスの頭蓋骨には綺麗な歯形があって、それは彼女と一致している。

 虫歯にならないように強制的に歯磨きをすることがあるのだが、内心、怖かった。

 彼女は歯磨きが好きじゃないんだ。


「私にも同じくらいの子供がいて……良かったら……」あめ玉をくれた。


「ほら、くれるって」


 ガキィちゃんは警戒を解かない。

 それもそのはずで、甘党の俺の影響を受け、10時と3時にはお茶をする。甘いものもしょっぱいものも好きなだけ与えられる生活を送る彼女だ。あめ玉ひとつで瓦解するほどやわじゃなかった。


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