教育はただではないのだ
眠れん!
旅の疲れを癒すために早めに寝ようと寝床に潜り込んだのが8時くらい。外からガヤガヤ聞こえてきたのが8時10分くらい。夜中だ。皆もう寝ろ。外はすっかり真っ暗であったし、どう考えても、これは攻撃だった。
睡眠の質の低下は判断力の低下を引き起こし、判断力の低下は『事故』を誘発する。
「自衛隊はもっと米をよこせー!」
「税金泥ボー!」
「最低の屑やろ~!」
なんだってこんな夜中にやるのだ。たしかに、我々日本国民には発言の自由が認められている。しかしそれは平時の事であって、今は違う。自衛隊に守ってもらって生き残ってきたんだろ?柵の中でヌクヌクと。何やってんだ。
「お前ら、いい加減にしろ!」敬語を忘れた。怒っていたのであった。
「なんだてめぇ!」
男の口から唾が飛ぶ。黄色い歯が口から見えた。下の前歯が黒く変色して、虫歯だと分かった。
頭がボサボサに伸びきった体付きの薄い男だった。手にはタコ無し、生まれたての赤ちゃんみたいに白くて柔らかそうだった。力仕事をしたことがないのだろう。多分、ヤンキーだ。親に食わせて貰ってたな。体を鍛えた事もない連中。自分が世界で一番偉いと勘違いした連中だ。
なんでこういう奴が、大きな顔をしているのか理解できない。皆が大人になって譲ってくれているのが彼らには理解できない。人に怒鳴るのは気持ちが良いよな。自分が強くなったような気がするよな。
でもその態度はないだろう。
「自衛隊の皆さんに守ってもらっているんでしょう? 夜くらいぐっすり眠らせてあげても罪にならないんじゃないですかね?」俺はにっこりと笑う。これは警告だ。それも最後の。
「税金で食わせてもらってるんだろ!俺達が抗議して何が悪い!」
「ああ、もういいから、外に出なさい」
「なんだぁ!?男女つれて良いご身分だなぁ!」
おい!だんごむしくんの悪口いったこいつ!!はい!殺す!
自分で税金納めたことも無いんだろ!言葉で言って分からない奴は殴るしか無い。
「農家さんだめス!せっかくいい人なのに悪者になることないスよー!あー!!」
攻撃の基本は自分の武器で相手の弱点を潰すことである。ゲームでも、ボスキャラは目玉を潰せと相場が決まっている。
俺の突き出した拳は綺麗な軌道で男の口に飛び込んだ。
バキリ!っという感触。虫歯で腐った下顎ごと剥離した前歯は男の喉に飛び、ホールインワンを決めたらしくカポン!と変な音を立てた。
普通ならば吐き出したりするものだが、彼は動かなかった。
喧嘩をしたことがないというのもあるだろう。普通の人間は喧嘩をしない。自分の社会的地位を失いたくないからだ。
「俺には失うもんねーんだよ!!バカがよぉ!!!なめてんじゃねぇぞ!!!」
彼にはもう次がなかった。こうなったらもう、コンテニュー不可。タコなぐりだ。
レッスンワン。喧嘩で絶対に倒れちゃいけない。倒れてもすぐに立ち上がらないといけない。なぜならこうなるからだ。
右パンチを側頭部に当てて、サッカーボールみたいに頭が地面で弾む。硬い頭蓋の中、体液に包まれた脳ミソがぐちゃぐちゃにシェイクされる。さらに復活する前に左フックでポカン!反対側にシェイクする。
「俺の!仲間に!悪口言うな!」
唾をぺって吐く!2度と逆らうな!不細工な顔見せんな!
これで終わりだった。ゴングだ。
全治2ヶ月コース。前頭部に衝撃を与えたから日常生活に支障が出るかもしれない。そしてこの世界には適切な治療など存在しない。終わったな。
ちんこ蹴ろ!そうだ!そうしよう!
現実にゴングなんてねぇ!
「ちんこパーン!ガハハハハハ!!!」
「っ~~~!」
「俺の!だんごむしくんに!謝れ!」
パンパンパン!!!
「ウグッ!!!ごめ……んはひゃ。ごめんひはい。ごぺんなひゃい……」
口がぐちゃぐちゃで笑っちゃった。前歯がない。唇は剥がれ落ちてぶら下がっている。俺はこの世界に適正があるんだ。最高だろ?
痛みは誰にも平等だからバカでも理解しやすい。法律よりずっと簡単なのだ。
ここは暴力という言語がある。体をもっと鍛えなきゃいけない。もっと強くなる。力っていうのは力なんよ。力があるから仲間を守れるんだよ。俺達はもっと強くなければならない。




