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東京にて

 予想では3000万人の方がこの感染症で亡くなったとみていた。内、2000万人は感染した人から受けた暴行によって亡くなったであろうと思っていた。しかし、実際にはもっと多くの方が亡くなったようだ。逃げてきた人の話では、東京で白骨が道に転がっていると言う。さらにはそれらが折り重なってできた骨塚が地下鉄の構内にできていると言うのだ。頼りになるはずの行政は後手に回った。民主主義の『話し合い』による対応策の検討は、小一時間の時間を必要とし、その時間で数千人の方がねずみ算的に感染した。この感染症の主な特出すべき点としては、保菌者が非保菌者に噛みつくことで感染することにあった。つまりそれは、噛みついてくるのが友人であり、同僚であり、家族であることを示している。当然、中にはその面影を残している人体もあって殺すに殺せない。日本政府があれを感染者と呼んでいることからも分かる通り、治療できるものとして接していた。

 パニックになった都会。押し寄せる感染者の群れ。アラートによる一斉指示では、高い施設への一次避難を指示した。


 これは、人口の割に狭く、行き場のない東京では、車に乗ったまま感染することを防ぎ、さらには、緊急車両が道を通れるようにとの処置だったが、現実では、その判断が老人、子供、妊婦を切り捨てることとなった。


 階段をのぼれなかった人たちは、エレベーターの到着を待っていた。こういう時、特に遅く感じられるエレベーターがやっと一階まで付いたとき、感染者が逃げる人たちの足先に噛みつくのと同時であった。


 副次的には、直接戦力とならない人間が淘汰されたため、先に屋上へと避難した若者達の食事量を増やしたが、生き残った人たちの心を蝕んだ。そして、最後には備蓄も切れ、食料調達のために多くが降りて行ったのだと言う。


 都会には畑がない。緑化を売りにした会社では、家庭菜園の真似事をすることもあった。だがそれは真似事であって、食料供給を見込んだものではない。1平方メートル辺り30人の人々を到底養える量ではない。


 飢えた人々が待っていたのは自衛隊だった。自衛隊のヘリコプターでどこかの安全なところへ避難することだった。これは1週間かかった。自衛隊は都からの災害派遣要請を受けて派遣させる手はずとなっていた。しかし、都庁は既に感染者の巣窟となっていて、誰も担当していない電話がコールをし続けていたために、これを生きているものと判断してしまった。


 1週間後、自衛隊が独自の判断で救出に動いたとき、既に地獄があちこちの屋上で起こっていた。

挿絵(By みてみん)

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