第5節【Reggae to the Magical】
ラサを見失ってから、俺は亡霊のようにさまよい歩いていた。
生きる意味を失い、それでも再び逢えることを信じて、なんとか生きてきた。
そんな時に、ハンと出逢った。
その時も、俺を救ったのは音楽であった。
――光をくれ。
ラサとはまた違った、力強くも澄んだ歌声であった。
取り憑かれたように、星空の真下で歌うハンの元に吸い寄せられていた。確かその時も、ハンは俺にクラッシュを仕掛けてきたんだ。
「何か、おかしくねぇか?」
ハンの訝る声が、俺を現実へと引き戻していた。
南方から、禍々しい魔力を感じた。良く知るその邪悪な気配に触れて、記憶の奥そこから怒りがこみ上げてきた。気がつくと、俺は我を忘れて駆けていた。
「……あ、おい。ラスタッ!」
ガゼルの制止も聞かずに、俺は一目散に走っていた。
五感に絡みつくようなこの厭な感覚は、紛れもなく悪魔の気配だ。不意に、ラサの姿が脳裏をよぎる。
もう、あのころとは違う。何もできずに、後悔するつもりはない。
「Blow 先走る疾風のフロー。纏いし音に乗り、駆け抜けるフロア。先駆けて、飛び込む俺は漆黒の風!」
【ラガの魔法】で生み出した風に乗って、俺の動きは更に加速する。ラガを媒介にした魔法を、ハンから教わった。
六年前から、俺は自分自身の魔力を封印した。閉じ込めることによって、魔力を貯める技術をリデルから学んだ。もっとも、肝心な時に何もできないでいたが――魔力の無い俺は、ラガから生まれる力を、利用するしかなかった。
「おい、ラスタッ!」
後方から、ガゼルとハンも同じように追いかけてきた。
「一体、どうしたってんだ?」
ハンの問いかけを無視して、俺は次のラガを口ずさむ。
「Fire hurry up! 針を喰らいな! 尖った高速のlight 着火。刺さって、弾けて、飛んじまいな!」
前方の悪魔の一団に向かって、無数の針が飛来していく。
悪魔の数は目測でも、十を超えていることがわかった。その半数に、炎の針が刺さって爆発が起きた。
奇襲によって、数を半減させることができたが、まだまだ気は抜けない。
悪魔の標的は、聖女の一行で間違いなかった。フードを被った女が、複数の騎士に護られるようにして後方に控えている。
――自然と心博が、跳ね上がる。
形勢は劣勢だった。騎士とはいえ、悪魔を相手にすることに慣れていないのか、次々に倒れていく。このままでは、全滅するのは時間の問題だった。大きく息を吸い込むと、俺は更に声をあげた。
「いくぜッ!」
己自身を鼓舞する声に、聖女が気づいてこちらをみていた。顔までは解らなかった。
――ラサだ。
直感的に、そう理解した。
俺は今日のために、生き永らえたのだ。この時のために、強くなったんだ。今度こそ、ラサを守護ってみせる。
背に負った大剣・ベルセルクを引き抜くと、悪魔の群れに飛び込んだ。