表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂の砂漠~聖女も悪魔も恋してる。ラバダブみたいな、熱い恋しちゃってる!~  作者: 81MONSTER
【ラスタの書】第1章
5/48

第4節【聖女ラサ】



 ――六年前。



 リデルが言っていた事を、心の中で反芻(はんすう)していた。



月瞳(ムーン・アイズ)を持つ者は、悪魔に狙われる」



 なぜかその言葉に、心が無性にざわついていた。どうしようもない焦燥感に、()られていた事をいまも尚、(おぼ)えている。



 ラサは普段、とても大人しい少女のように思われた。



 物静かで、それでいて知的な印象をおぼえさせた。実際、人々と接する時に、大きな声を上げたり粗雑(そざつ)な口を聞いたことは一度たりとも見たことがなかった。

 聖女の名にそぐわない行動や言動は、けっしてとることはなかった。



 けれどリデルや自分の前では、地を出すことが多かった。



「ラスタさんのフローは、ぶれぶれなんですよ。毎回、違う印象で面白いんですけど、つまんない時はとことんつまんない。一貫性が、ない。信念が、無いんですか?」



 決して馬鹿にしている訳ではないのだが、ラサは楽しそうに語っている。いたずらを企む子供のような笑みを貼りつけるラサの表情(かお)からは、聖女としての神々しさが一切、感じられなかった。



 普段の聖女としての仮面を外した素顔は、どこにでもいるような普通の女の子と、何も変わらないのかもしれない。

 十四歳の少女には、あまりにも過酷な定めがのしかかっている。悪魔につけ狙われて、命のタイムリミットを負わされている。



 その上で周囲からは、聖女としての責務を押し付けられている。




 ――余りにも、あんまりだ。




 重圧(プレッシャー)で押し(つぶ)されていても、けっしておかしくはなかった。

 どれほどの感情を、ラサは押し殺して生きてきたんだろうか。

 ラサの為に、俺は命を捧げるつもりでいた。



 どんな苦難も、どれほどの試練も、決して苦ではなかった。けれど現実に襲いかかったのは、残酷なものであった。




   ●




 ――五年前。




 それは唐突に、訪れた。



 砂漠のなかにある一粒の砂ほどの希望が、嘲笑(あざわ)う運命という名の悪魔に奪われた。



 俺とラサの目の前で、リデルは死んだ。




 悪魔の凶刃(きょうじん)がリデルの胸を(つらぬ)く光景を、脳裏(のうり)の奥の奥のおくに――焼きついている怒りや悲しみや後悔を、俺はけっして忘れることはないだろう。どうしようもないほどの絶望が、俺達を(むしば)んでいくのが理解(わか)った。



 ラサの心中を察する余裕も、この時の俺にはなかったんだ。腹立たしいことに俺は、足がすくみうろたえる事しかできないでいた。




 ――何も、出来ないでいたんだ。




 だから、ラサの変化にも気づいてやれやしなかった。気付けたとしても、何もしてやれなかっただろうけど――少なくとも、当時の俺には――ラサを救いたかった。



 ラサを守護(まも)りたかった。

 無力な自分が、腹立たしかった。

 どうしようもなく、(なさ)けなかった。

 やり場のない怒りが、心を(さいな)んでいた。



 ラサの瞳に宿る月瞳(ムーン・アイズ)が、深淵(しんえん)(ふち)どられて()くのだけは解った。それが何を意味するのかは、解らなかった。



 大きな光が、ラサを中心に弾けていた。

 その直後に訪れた砂嵐が、全てを()(まわ)した。

 気付けば、ラサの姿を見失っていた。



 リデルの忘れ形見(がたみ)の大剣・ベルセルクだけがそこには残されていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ