第7節【イラッとしたんだ】
街を歩いていくと一際、大きな宮殿があった。
脇には泉が、沸いている。砂漠のなかを歩いてきたから、喉が乾いていた。
「ヤーマン、旦那ぁ~!」
顎髭を蓄えた若い男が、親しげな笑みを浮かべている。
パイプをくわえて、煙りを吹かしていた。麻薬を吸引しているのか、妙な匂いがした。
どこか目が虚ろで、異様な雰囲気を漂わせている。
わたしはあからさまに、警戒の色を浮かべていた。
「よぉ~、ロイン。久し振りだなぁ~ッ!」
旦那が拳を差し出すと、ロインが拳を重ねた。
「へぇ~……」
品定めをするような目で、わたしを視るロインの目が――とても、嫌だ。
虚ろな瞳のおくに、狂気のような光を宿している。背筋を、悪寒が走った。
「聖女様が、こんなとこ来ちゃ駄目だよ?」
小馬鹿にしたように、ロインが笑う。
正直なところ、イラッとしたんだ。
――だって、物凄くしつっれいじゃない。この街の領主だろうが、初対面の相手にその態度はないと思った。
ぶん殴ってしまいたい気分だ。だけど、そんなことをしたら、きっと大問題になるだろう。
だから、あることを企んだ。
舐め腐ったヒゲ野郎に、一泡ふかしてやらないと気が済まない。
バカにされたままじゃ、わたしの気が収まらないのだ。
「おい、ロイン。その態度は、ねぇだろッ!」
ガゼルの叫び声が、辺り一帯に響き渡った。
あまりにも露骨に、怒りの表情を浮かべている。
「わりぃな、旦那。ちょっと揶揄っただけだ。そんなことより、なんの――」
「そんなことってのは、どういう訳だ?」
ハンが割って入る。
「俺に喧嘩、吹っかける気ぃ~?」
豹変したロインが、わたしたちを鋭い眼光で睨みつけていた。
急激に魔力が、跳ね上がるのを感じた。
一触即発の空気が、辺りを埋めていく。このままだと、誰かが傷付いてしまう。わたしが原因で、皆が争うのはあまりにも馬鹿らしい。
――仕掛けるなら、今しかない。




