第6節【ブルバイの街】
朝食を済ませると、すぐにベースキャンプを立った。
灼熱の太陽に焼かれながら、一時間ほど歩くとブルバイの街が見えてきた。
ラハブの街しか知らないので、正直なところ楽しみではあった。一体、どんな所なんだろうかと、想いを巡らしている内に、街の入り口まで辿り着いた。
そこで、わたしの幻想は打ち砕かれた。
――まず。街の雰囲気が、昏いのだ。そして、異様な空気が漂っている。至るところで、煙りが立ち昇っていた。変な匂いが漂っていて、頭が妙にクラクラするのだ。
「あんまり、煙りを吸わないようにな。ラリっちまうぞ」
ハンが、静かに耳打ちする。
街のなかで、麻薬が蔓延しているんだ。
「本当に、ここで大丈夫なんですか?」
胸の奥にある不安が、自然と口をついて出た。
不意に、一人の少年が目に入った。
ぼろを身体に巻き付けていて、髪はボサボサであった。
周りの大人たちは、綺麗な服を着ている。貴金属を付けている人までいるのに、少年だけが汚い身形をさせられている。
なんだか、胸が苦しくなった。この街は、間違っている。
この街の空気が、好きにはなれなかった。
「聖女がこの街に、なんの用だぁ~?」
パイプを使って、煙りを吹かしている男が突然、声を掛けてきた。
どこか虚ろな目で、こちらを見ている。にやにやと、いやらしい笑みを浮かべていた。
嫌悪感が胸内を、ゆっくりと満たしている。
「お前さぁ。俺達が誰だか解って、言ってんだろうな?」
ハンが笑みを湛えながら、問い掛ける。
途端に、男が顔色を変えた。
「解ってるてぇ。別に、あんたらに喧嘩、吹っかけるつもりはねぇ」
恐怖の色を浮かべながら、男は弁明する。
「解ってんなら、絡んでくんなよッ!」
三白眼で睨みつけながら、ガゼルが叫んだ。
「悪かったってぇ……」
狼狽えながら、必死に謝る男を無言で睨み続けるガゼル。
――ざまぁみろ。と、内心では思ったが、それを表には出さなかった。
「あんまり、苛めるなよ。揉めごと起こすと、あとが面倒だ。それより、ロインのとこへ早くいこう」
ハンが、ガゼルの袖を引いた。
それでもまだ、睨んでいたのを見て、少しばかり気が晴れてきた。
「――大丈夫。何が在っても、君は俺が守護るから」
そう言って、ラスタが優しく微笑んでくれた。
――それが。めちゃくちゃ、嬉しかったんだ。




