第1節【絶対に渡さないんだから!】
何もない空間に、わたし達は立っていた。
真っ白で広いだけのその場所に、わたしは、居る。
目の前には、ラサがいる。わたしと同じように、動揺しているようだった。
全く状況が理解できなかった。ここは一体、どこなのかも――どうして、こうなったのかも解らない。初めてラサと向き合って、理解ったことが一つだけある。
わたしはラサのことが、心のそこから大嫌いなんだってことだ。肚のそこから怒りが込み上げている。
どうして、こんな感情が湧き上がっているのかも解らないけど、わたしとリラが相容れないことだけは確かだ。
「どうして貴女が、ここにいるの?」
「ここは一体、どこなの?」
わたしとラサの問いかけは、ほとんど同時であった。
しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはラサの方だった。
「初めまして、リラ。この状況は、私にも解らないわ」
薄っすらと笑みを浮かべて、わたしを見ている。
その微笑に、わたしの神経は逆なでされるんだ。
――聖女と悪魔。
べつにそんな関係は、どうでも良いんだ。
――だけど。ラサの生き方が、わたしには理解らない。
悪魔のくせに、聖女のような振る舞いが気に入らないんだ。
だって……。
――だってだよ。わたし達は聖女として、多くの人の感情を身勝手に、押し付けられることを宿命づけられている。
誰かのために、生きたいとは思わない。誰かを喜ばせたいだなんて、思わない。ましてや世界中の人のために、命を捧げるなんてイカれている。
それなのに、ラサは皆の笑顔のために生きている。
――ふざけるな。悪魔のくせに、聖女ぶるな。
ラスタの顔が、頭を過って更に怒りが加速していった。
「わたしは、あなたの事が大嫌い」
言わずには、いられなかった。
どうしようもなく、むかつくんだ。理屈じゃないんだ。
だって、わたしには何もないんだ。それなのに、ラサはわたしの欲しい物を全部、持っている気がしたんだ。
――悪魔のくせに。
「悪魔のくせに、聖女ぶるな。どうして、あなたが――」
「聖女ぶってなんかいない。私は只――」
気付けば、わたしの頬を涙が伝っていたんだ。
急に言葉を詰まらせるラサに、想いの内を伝えたかったんだ。
「わたしは、ラスタが好き」
わたしの心のなかには、ずっと前からラスタが居たんだ。
「だから――あなたには、絶対に渡さないんだから!」
それだけ言った途端、急に意識が途切れてしまった。




