第3節【団長ガゼル】
「お前等、元気にしてるかぁ~~~~っ?」
めちゃくちゃでかい声で、ガゼルが皆に問いかける。
団長であるガゼルは、偵察に出ると言って出ていった。三日ぶりの帰還である。
けたたましいほどに大きな声と、大雑把な性格をしている。ハンとは対照的な大男で、これまた筋肉むき出しのマッチョマンである。いかつい顔に、鋭い三白眼がいかにもな雰囲気を醸し出してはいるが、優しく繊細な心を持っている。
涙もろくて、感情的。話はおもろくて、情熱的。そんな熱くて暑苦しいのが、ガゼルという男である。
「俺が居なくて、寂しくなかったかぁ~~~~っ?」
誰も答えないし、応えない。
またいつものやつが始まったぐらいにしか、思わなかった。
「とっておきの話を仕入れてきたってのに、冷てぇやつらだな……」
ほんの少しだけ、へこんでいるようだった。
「明日の朝、この道を聖女の一行が通るってぇ話しなんだが、誰も興味ねぇんだな?」
ドヤ顔のガゼルの言葉に、皆が息を呑むのがわかった。
「旦那、今の話しは本当なのか?」
「さぁねぇ……」
拗ねた様子のガゼルが、とたんに渋りだした。
「情報の出所は、どこなんだい?」
「おめぇら、俺の話に興味ないんじゃなかったっけ?」
そっぽを向くガゼルは正直、めんどくさいやつだ。
「旦那……」
気づくと俺は、ガゼルの目の前にいた。
きっと怒ったような、真剣な表情をしていたんだと思う。ガゼルの顔も、少しばかり強張っていた。
「教えてくれ。その話は、本当なのか?」
まっすぐに、ガゼルの眼を見据える。
ガゼルは確かに、聖女と言った。もしかしたら、俺を救った少女に逢えるかもしれない。
真面目な顔をしたガゼルからは、感情までは読み取れない。だけど、それはほんの一瞬のことであった。すぐに表情を崩して、ため息をついた。
優しい眼差しで、穏やかな声で応えてくれた。
「そんな眼で見られちまったら、教えねぇ訳にはいかねぇな」
シガーと呼ばれる筒状のものを取り出すと、その根元を咥えた。魔法で生み出した炎の指先で、先端をゆっくりと炙る。
ガゼルの口から吐き出される煙りが、緩やかに風に流されていく。
この場所は、砂漠の真っ只中に位置している。
人々は河の近くに、拠点をおいて生活を送っている。雨季になると河となるが、乾季のあいだは水が干上がってワジとなる。
なので必然的に、ワジを辿ると街に行き着く。
俺たちは常に、ワジを拠点にしている。
「南の方の街で、聖教団の一行が話しているのを聞いたんだ」
酒を一息に飲み干すと、ガゼルは後を続けた。
「やつらの中に、フードを目深に被ったやつが混じってた。体格からして、女だと思うが……そいつが、どうやら聖女らしい。大っぴらには言わないが、『聖杯』がどうとか言ってた気がする」
信憑性のほどはどうか知らないが、ガゼルは噓をつくような男じゃない。
その場にいる全員が、固唾を飲みながらガゼルの話しに聞き入っている。
「別に聖教団に悪さをするつもりはねぇが。面白そうだから、皆でこっそり見学してみねぇかと思ってな」
子供みたいな発想だったが、大いに賛成だった。
もしも、その話が本当だったら聖女――ラサに逢えるかもしれない。
自然と高鳴る鼓動を、抑える事ができなくなっていた。
とてもじゃないが、正常じゃいられねぇ。
――逢いたい。
ラサへの想いが、昂る感情が、くすぶり続けていた心に再び火をつけていた。