第10節【領主ロイン】
街の中央に、巨大な宮殿が聳えている。
その脇には、泉が沸いている。領主ロインの私有地であり、泉の水はロインの許可なくして飲むことができなかった。私設兵を保有しており、ロインの意にそぐわない人間は彼らの手によって裁かれるのだ。
だから一応は、街には秩序が存在する。
「ヤーマン、旦那ぁ~!」
若い髭面の男が、パイプをくわえている。
「よぉ~、ロイン。久し振りだなぁ~ッ!」
昼間っから麻薬を吸引するその姿は、領主にはとても似つかわしくない。
はっきり言って、俺はロインが大嫌いだ。いけ好かないし、関わりたくない。本当なら、ここに来るのも嫌だったが、目的があるので仕方がない。
リラがあからさまに、不審そうな眼差しを向けている。
「へぇ~……」
品定めをするような目で、リラを見ていた。
イラッときたが、問題を起こす訳にはいかない。
「聖女様が、こんなとこ来ちゃ駄目だよ?」
小馬鹿にしたように、ロインが笑った。
ぶん殴ってやりたい所だが、目的を果たさなければいけない。平常心を保たなければ――
「おい、ロイン。その態度は、ねぇだろッ!」
ガゼルの叫び声が、辺り一帯に響き渡った。
「わりぃな、旦那。ちょっと揶揄っただけだ。そんなことより、なんの――」
「そんなことってのは、どういう訳だ?」
ハンが割って入る。
「俺に喧嘩、吹っかける気ぃ~?」
途端に鋭い眼光で、一同を睨みつけるロイン。
急激に魔力が、跳ね上がるのを感じた。
いま争いになれば、かなり面倒なことになる。すでに一触即発のピリピリとした空気だ。ひとつでも間違えば、あっ……と、いう間に誰かが傷つくことになる。
――と、その時だった。
美しい声が、辺りを埋めていく。
ラサのハミングに、皆が心を奪われていたんだ。




