第9節【奴隷と麻薬の街ブルバイ】
「本当に、ここで大丈夫なんですか?」
街に入るなり、リラが不安げに問う。
その疑問は、無理もなかった。
この街は奴隷制度が、敷かれている。一部の富裕層が、奴隷を働かせて至福を肥やしている。金がなければ、ここでは真面に生きていけないんだ。そしてここでは、麻薬が蔓延している。
その辺の路地で、普通に麻薬を吹かしている連中がいる。なかには奴隷を、薬漬けにしているものまでいる。基本的には、ここの連中はイカれている。
この街では、金次第ではなんでも手に入る。
「聖女がこの街に、なんの用だぁ~?」
薬でラリった男が、こちらにヤジを飛ばしている。
「お前さぁ。俺達が誰だか解って、言ってんだろうな?」
ハンが笑みを湛えながら、問い掛ける。
この街では、俺達の名は知れ渡っている。滅多なことでもない限りは、争いにはならなかった。
「解ってるてぇ。別に、あんたらに喧嘩、吹っかけるつもりはねぇ」
恐怖の色を浮かべながら、男は弁明する。
薬の勢いで言ったのだろうが、正直なところは腹が立った。
「解ってんなら、絡んでくんなよッ!」
三白眼で睨みつけながら、ガゼルが叫んだ。
「悪かったってぇ……」
狼狽えながら、必死に謝る男を無言で睨み続けるガゼル。
「あんまり、苛めるなよ。揉めごと起こすと、あとが面倒だ。それより、ロインのとこへ早くいこう」
ハンが、ガゼルの袖を引いた。それでもまだ、睨んでいた。曲がったことが大っ嫌いで、頑固なのが良くも悪くもガゼルらしいところだ。
ロインとはこの街の領主で、ラガをこよなく愛している。
専属のセレクターやディージェイを、何人も抱えている。この辺でレコーディングができるスタジオを持っているのは、ロインぐらいのものだ。
以前にロインを厄介事から救ってから、非常に気に入られていた。性格は最悪だが、俺達の持つコネのなかでは、もっとも大きいものだ。利用できるものは、何だって利用させてもらう。
「――大丈夫。何が在っても、君は俺が守護るから」
不安そうなリラに、優しく笑いかけた。




