第7節【大剣・ベルセルク】
「怪我は、してねぇか?」
酒の入ったグラスを、こちらに回しながらハンが問う。
グラスを受け取りながら、無言でうなずく。正直なところ、色々と混乱している。
ラサの方を見ると、皆と歌いながら踊っていた。どんな時でも、笑顔で皆を照らすところは、何も変わっていなかった。ラサを見ているとなんだか、ホッ……としている自分が居る。
「バビロン野郎に Bombo claat!」
ガゼルの歌声が、こちらまで聞こえてくる。
グラスを一息に煽ると、少しだけ冷静になれた。
アスクレピオスの出現に、怒りで我を失ってしまった。もっと冷静になっていれば、もう少し違う展開もあったはずだ。無駄に魔力を消費して、実力の半分も出せていなかった。ラサを護るどころか、逆に護られていた。
「――なさけねぇ」
思わず本音が、零れていた。
「まぁ、気にすんなよ。そう言うことだって、有んだろ?」
慰めるように、ハンが酌をする。
並々と注がれた酒を煽ると、俺は自分のテントに向かった。
「アレを、出すのか?」
酒を飲みながら、ハンが横目に眺めている。
「湾刀じゃあ、話しになんねぇからな。これからは……肌身離さずに、身につけとくよッ!」
そう言いながら、リデルの形見である大きな剣を取り出した。
普段は重量があるので、湾刀を腰に提げている。勿論、戦闘で扱えるように、鍛錬はしている。普段の生活では、かえって邪魔になるので仕舞い込んでいただけだ。――だが。その考えが、甘かったようだ。
アスクレピオスでけだはなく強大な敵が訪れた時に、すぐに対応するには常に構えておく必要が在った。今回のことで、それを思い知らされた。
大剣・ベルセルクには、強力な魔力が籠められている。柄には三つのスロットが誂えられていて、蓄音骨を読み取ることができる。
――詰まりはラガを、魔力に変換することができると言うことだ。サウンドシステムの備わった武具は、極めて稀少なんだ。だから、お金では決して手に入らない。
「ヤバい……めっちゃ、重い!」
ハンが片手で持ち上げながら、余裕の笑みを浮かべている。
うまく扱えれば強力な武器となるが、かなりの重量があるため鍛錬が必要だった。どんな時でも鍛錬は毎日、欠かさずにしている。
背に負うと、結構な重圧がのしかかっている。
「明日、あさイチで街にいこうか?」
ハンの言葉の意図は、すぐに理解った。
「ラスタにダブプレートを、送りたいんだ」
そういうと、ハンは酒をボトルごと煽った。




