第6節【蛇の悪魔アスクレピオス】
燃えながら、アスクレピオスは笑っていた。
炎の熱を、全く意に介していない様だった。そもそも何故、アスクレピオスが悪魔を率いているのかも、不思議であった。
「お前の力は、その程度なのか?」
次第に炎の勢いが、弱まっていく。
「俺は、悪魔の力を手に入れた」
焼ける皮膚が、全く異なる形で再生されていた。爬虫類を思わせる鱗が、アスクレピオスの全身を覆っている。一体、何が起きているのかが解らなかった。
焼ける手で、首を掴まれていた。
呼吸を妨げられて、苦しくなった。
「素晴らしい力だとは、思わないか?」
首を絞める力が、強くなっていく。
「貴方の目的は、私でしょう?」
前に出るラサが、手をかざしている。
膨大な魔力が、ラサを包み込んでいる。
乱暴に投げられて、地面にぶつけられた。
「素晴らしい力だな。聖女よ、お前のその目が、我々には必要なのだよッ!」
アスクレピオスも又、強大な魔力を有しているのを感じた。
互いの手のひらから、魔力の光が迸っている。それらがぶつかり合って、弾けようとしている。
両者の力は、拮抗している様だった。
「残念だなぁッ――俺とは、遊んでくれないのかぁッ!」
――突如、ガゼルの叫び声と共に、巨大な炎の塊がアスクレピオスを襲った。
派手に吹っ飛びながら、大爆発が起きている。
熱を孕んだ爆風に煽られて、身体が揺れた。ガゼルの魔力量は、本当に規格外だった。
「どうやら、邪魔が入ったようだな。今日のところは、引き上げさせて貰うが……次に逢う時は、絶対に逃がさない」
全身の皮膚が、ひび割れていた。
「あぁ――それと、ラスタぁ~!」
蛇のように陰湿な視線をこちらに向けて、不気味に嗤うアスクレピオス。
背筋に、寒気が走った。
「お前だけは、必ず殺すから……覚悟して、待ってろよぉッ!」
異常なまでの執着というか、執念のようなものを感じた。
闇と同化するように、アスクレピオスは姿を消した。
「お前ら、大丈夫か?」
ハンが駆け付けてきた。
「まずは、ベースキャンプに戻るぜッ!」
いつの間にか、葉巻に火を付けているガゼルが叫んでいた。




