第3節【Rub-a-dab TIME】
どんな時でも、記憶のなかのラサは笑っていた。
落ち込んでいるラサを、俺は見たことがなかった。
「一つに繋がるこのリディム 乗せる爆音 ラガ男児!」
ガゼルの叫びが、夜に木霊している。
ラサは楽しそうに笑っていた。
「皆で歌い 皆で叫ぼう この音楽で一つになろう!」
いつの間にかグラスを煽っていたハンが、ハミングを始めている。
「共に笑い 共に泣く 俺らは夜に 愛を込める」
ゆっくりと歩みながら、ハミングを続けるハンの後をついていく。
「ONE WAY! ONE WAY! ONE WAY!」
「Wi a entertainer」
ガゼルの後に続けるハン。語尾をこれでもかというぐらい伸ばして歌っている。
「ONE WAY! ONE WAY! ONE WAY!」
「Pon di border 夜を超えて灰になる」
笑みを浮かべて、俺も歌い始めた。
「SHATTA ra ta shutout バビロンは SHA TA TA」
ゴンフィンガーを天に向けている。
ラサは楽しそうに踊っている。俺と目が合って、ゆっくりと近づいてくる。
自然と心拍が跳ね上がるのを感じたが、構わずに歌い続けた。
「ラスタが 打ち抜く こめかみ Barn up!」
俺の後にハンが続けていた。
「ねぇ」
――不意に。
ラサが声をかけてきた。
「二人ですこし、話さない?」
遠慮がちにではあるが、こちらを見上げるラサがとても可愛らしかった。
以前までは、お互いに気兼ねなく話せる仲であった。だけど今のラサは、記憶を失っている。
変に意識しているせいなのか、めちゃくちゃ緊張してしまっていた。
「Ban! Ban! Ban!」
ゴンフィンガーを掲げながら、ラサは叫んでいた。
面喰っている俺を見て、めちゃくちゃおかしそうにラサが笑った。
「私だって、緊張してるんだから。ちゃんと、リードしてくれますか?」
急に真顔になって、こちらを見つめるラサが綺麗だった。
不謹慎だが、そう思ったんだ。




