第1節【月光蝶】
喧騒がゆっくりと、炎に照らされている。皆が興味深そうに、ラサを見ている。
――気になって、仕方がないんだ。
砂蟲の肉を炙りながら、遠目にラサを眺めている。砂漠においてタンパク質は、貴重なエネルギー源であった。砂漠には様々な生物がいたが、容易には捉えられない。中でも、食べられる生物の獲得は極めて難しいんだ。
砂蟲の肉は硬くて、砂っぽくて食べるには特殊な加工が必要だった。だけど幼虫は、驚くほどに柔らくて甘みがあるのだ。先日の狩猟では、三頭の幼虫を仕留めることができた。
頭から臀部を串刺しにして、大きな火で回しながら炙り焼きにすると絶品だ。
「あの娘が、ラスタの惚れた女か?」
ハンが茶化すように、問い掛ける。
「そうだよ」
真顔で応えると、ほんの少しだけ驚いた顔をしてから、ハンが笑った。
「愛に満ち溢れてて、良いねぇ。一途って奴だ」
拳を突き出すハンに、拳を重ねる。
「――あ、俺と一緒だ!」
「バカいうな。女ったらしのハンって言えば、皆が知ってるぜ?」
互いに、笑みを浮かべている。
「一緒に、ザイオンに行くんだろ?」
「あぁ。もうすぐ、お別れになっちまうな」
ハンやガゼル達には、本当に感謝している。だけど、俺の命はラサを救うためにある。
――護りたいんだ。
命に代えてでも、俺はラサを救いたい。
「アンタにも、譲れないもんぐらい在るだろう?」
「そうだな。酒と女だけは、誰にも譲れねぇなぁ!」
又、笑いながら茶化すハンを見て、笑みを返す。
すぐそこで、皆が馬鹿笑いを上げている。
ラサも何だか、楽しそうだった。
――月光蝶って、知ってるかい?
初めて逢った日、ハンが俺に言ったことを思い出していた。この世には、どんな病でも治せる薬があるらしい。不意に――あの夜の月が、ラサと重なった。
柔らかな。そして、美しくて優しい声が、緩やかに流れてきた。
ラサの歌声が、とても綺麗だった。




