第5節【Rub-a-dab Style】
「わたしは、どこへ向かうの? わたしは、何をすればいいの?」
リラの声が、闇夜に木霊している。
珍しく彼女は、夜更かしをしていた。明日から巡礼の旅に出なければならないのだから、少しでも眠って体力を温存しておくべきだった。
だけどそれは、彼女には出来ないんだろう。普通の女の子としての儚い願いが、今夜で完全に途切れてしまうのだから――出来るはずがなかった。
「皆、死ねばいい。死んでしまえばいい」
ゆっくりなリディムに、リラの渾身の想いが籠められている。それははっきり言って、最低な歌詞だったが私には否定できない。
――Mi nah wish dead inna mash up!
せめてリラのバイブスに、乗ってみせよう。これは私の勝手だ。
身勝手に始めたラバダブで、私はリラと繋がりたいのだ。リラは嫌いだけど、あの子は私の半身なんだ。
音楽は皆、平等に楽しませてくれる。
音楽は皆、平等に湧かせてくれる。
音楽は皆、平等に慰めてくれる。
音楽は皆、平等に気づかせてくれる。
音楽はわたしを、別人に変えてくれる。
音楽は私を――私たちを、変えてくれるんだ。
「すべて、壊れてしまえ。世界なんて、ぶっ壊れてしまえ」
――だけど、私は見捨てない。壊れてしまえば直せばいい。
素直な気持ちを、音に籠めて歌うんだ。
リラのバイブスに乗っかって、私の心を歌うんだ。
「わたしは、聖女なんかじゃない。普通の女のこなんだ」
――私は悪魔だけど、普通の女の子じゃ物足んない。悪魔や聖女なんて、関係ねぇ。困ってる人は、放っとけねぇ。人の笑顔が見たいだけ。誰かを幸せに、したいだけ。
リラと私の関係は、ラバダブみたいだった。
同じ音に乗って、それぞれの曲を歌うラバダブ。
同じ身体に、二つの魂が乗っかっている。
正に私とリラは、ラバダブそのものだ。
だったら、楽しまなくちゃ勿体ない。
流れる音とともに、私の心は踊る。ほんの少しリラが、好きになれたかもしれない。
意外と私の声は、リラにも届いているかもしれない。
だって、ラバダブなんだもん。
繋がり合いたいじゃない。




