第2節【夜の闇】
リラが、泣いている。
リラが、苦しんでいる。
どうしてなんだろう。
どうして苦しんでいるのかが、解らなかった。どうして泣いているのかが、解らなかった。
聖女としての使命からなのか、別の理由なのかが解らない。
やっぱり私はリラのことが嫌いだったが、苦しんでは欲しくなかった。
原因が解ったからといって、どうにかしてあげれる訳ではない。だけど、それでも、理由は知りたい。
私とリラは一つの存在ではあるが、互いに繋がっている訳ではなかった。別々の部屋にいるような感覚に近いのかな。基本的には、互いに干渉し合わないようにしていた。だから私には、リラが何を考えているのかは解らない。
何を想い、何を感じているのかが解らない。だけどリラが何をしているのかは、視ることができた。リラの記憶は共有できないけど、リラが見ているものを視ることができた。その情報を遮断することも可能だったし――大抵の場合はそうしているんだけどね――逆に、常に繋げっぱなしもできた。
基本的には、見たくはない。だけど外部の情報自体は気になるから、ちょこちょこはチェックを入れている。それは多分、リラも同じなんだと思う。
そんな訳で、リラが泣いていることだけは解った。
床に就いているのか、辺りは暗くて仄かな月明かりが部屋を照らしている。
もう間もなく、リラが眠りにつくだろうか。その前に、入れ替わるべきなのだろうか。
夜にさえなれば、私はリラとの主導権を入れ替えることができた。任意での交代なので、私が出るつもりがない日は、大人しくしていることもできた。逆に朝がくれば、リラが任意で入れ替わることができた。
日中はリラに、夜には私に主導権が在った。
基本的には、私はインドア派だ。
毎晩、外に出るということはなかった。今夜はどうしようかな、と思って覗き込んだらリラが泣いていたんだ。
大抵、リラは苦しんでいる。
夜の闇が、それに拍車を掛けているのだろうか。眠る前に、泣いていることが多かった。そんな時は何となくだが、外に出ていきづらかった。
だからいつも、そっとしている。
それでも外に出たい時は、リラが眠るのを待つようにしていた。こう見えて、私は彼女に気をつかっているんだ。
嫌いな人だけど、宿主なんだから――そんな意識でいた。
夜の闇だけが、リラを包んでいる。
真っ暗にリラの心を、浮かび上がらせている。
――可哀想なリラ。
何故だか不意に、心のなかでメロディーが流れていた。
それは、歌だった。
見るとリラが、歌っている。
音楽だけが、いつもリラを慰めていた。
リラの歌声が、静かに夜の闇に溶け込んでいった。




